『呪怨なるもの』
コウは村の人達に生贄として怪物が住むという洞窟に捧げられてしまった。
中に居た怪物は闇に紛れ、姿は見えず、ただ漠然とした恐怖のみがコウを襲う。
餞別にと父がこっそりと持たせてくれた札も意味は無く、巨大な怪物を前にしてはなんの効力も示さなかった。
「もうダメだ」
その感情がコウを支配した。
怪物は少年であるコウを見て、獲物が来たと言わんばかりにコウを暗闇の洞窟の中に閉じ込めた。
その気になったら何時でも食い殺せるぞと言われている気分だった。

………………

そして、ついにコウは完全に殺された。
出会ってからすぐに片腕を噛みちぎられた。
人生で一度も経験したことがないような痛みに襲われ、泣き叫んだが、コウは死ななかった。
死ねなかった。
怪物の力なのか、コウはどうな傷を負っても決して死ぬことはなく。ついには怪物に「お前が完全に死ぬ時は、俺がお前の全てを食べた時だ」と笑わる。
それからというもの、怪物の気まぐれに、コウは四肢をもがれた。残りの腕を、両の足を一本ずつ。
コウに対抗する術はなく、ただ、叫ぶ死体のように為されるがまま。
怪物は苦しむコウの姿を見て楽しむかのように食べ進めた。
コウの四肢が無くなり、心の光が全てが消えた頃、怪物は尋ねた。
「辛いか?」
コウはもう答える気力すら無かった。
だけど、今までの鬱憤を全て吐き出すかのように力を振り絞って言う。
「あぁ。辛いよ。痛いし、怖い。でもな、僕はお前を哀れに思うよ」
「なに?」
「お前は、人を食う限りはずっとこの暗闇の中に一人だ。永遠に」
「それがどうした」
「寂しかったんだろう?今まで僕を生かしてきたのもそういうことだ。お前は人を殺す限り永遠に一人なんだ」
怒り狂った怪物はついに、コウを地面に打ちつけ、跡形もなくこの世から消し去ってしまった。

作:佐倉景