行方不明者についてのポスターですか?
知っていますよ。私もよくあそこを通りますから。
探されている人についてですか?
……心当たりがないと言ったら嘘になります。
身体欠損がある、両腕のない男の子を知っています。
でも、彼らは元々おかしかった。こうなるのも半ば必然のようなものだったんだと思います。
私は他の人より、『眼』が良かったんです。
霊感って言うんですかね。人には見えない、良くないもの全般がうっすらと見えてしまう。
行方不明者の彼は私の近所に住んでてよく私に挨拶をしてくれた子でした。
……私は挨拶こそ返しはするものの、目も合わせることができませんでしたが。
彼の身体からは常に黒い靄が立ち上っていました。
どす黒くて、強い瘴気のような。
主に彼の四肢や彼の『名前』からそれはよく見ることができました。
『名前』についてですか?そのままの意味ですよ。
彼の名前を呼ぶ、その人の口から黒い靄が出るようになる。
……それが怖くて私はあの子の名前を一度も呼んであげることができませんでした。
彼の名前ももう覚えていません。
彼に最後に会ったのは彼が高校生の時です。
いつも暗い顔をしていた彼の表情が少しずつ明るくなっているのに気がついた頃でした。
彼はある時期からなにかに塞ぎ込んでいて小学校に上がる前は明るかったのに、暗い性格になっちゃったみたいで。
そんな彼が高校生のある時を境に笑顔を取り戻すようになった姿を目にしました。
その後すぐ、彼は彼女らしい、可愛い女の子を家に何度か呼ぶようになって、一緒に帰ってくる二人をよく見かけるようになりました。
ただ……彼女を見た時、私は一瞬心臓が止まるかと思いましたよ。
「あ、彼と一緒だ」
そう思いました。
彼女の身体からもほんの少しですが彼と同じ靄が立ち上っていたんです。
もちろん、彼と比べたら微々たる量でしたが。
ただ、怖いのは、彼女と会う度にその靄が濃くなっていることでした。
要するにね、『移って』たんですよ。
インフルエンザとか、自分の病気が他の人にも感染して影響を与えるみたいに、その『瘴気』も同じだったんです。
私はこれはいけないと思って一度だけ彼女に話しかけたことがあります。
私には霊感があること、彼から出る靄について、それがあなたにも移っていること。
今思えば、変なことを言う、怪しい人でしたが、彼女は私の言うことを全て信じてくれました。
……ただ、本当に予想外だったのはこの後です。
私は彼女に「これ以上はあなたにも危険があるかもしれないから彼と関わるのは終わりにした方がいい」と忠告した時です。
恐怖で鬼気迫るような顔をしている私に対して、彼女はショックでも恐怖でも、ましてや変なことを言う私への怒りでもなく。彼女は照れるように頬を赤らめたんです。
「そうですか。えへへ」って。
訳の分からない私に彼女は「気を使ってくれてありがとうございます」「知っていますよ。でも、これでいいんです」と返して、彼の元へ帰っていきました。
……私は彼女に恐怖を覚えました。
霊障のある彼と狂っている彼女。
こんな二人が一緒に居るのかと戦慄さえ覚えました。
だから、この話はあまりしたくなかったんです。
その時以降、彼の家周辺の道を使うのも止めました。
あの時の彼女の狂った表情が未だに夢に出てきそうになるんですから。