確か、四肢に欠損がある同級生がいましたよ。
なんなら、その片方には数年前に会いましたよ。
そうです。身体に欠損がある人でしょう?
二人いましたよ。
男女で一人ずつ。
俺が前に会ったのは女の方ですね。
会えるかって聞かれて、その頃はまだ仕事も忙しくて、仕事の休憩時間に合わせてカフェで待ち合わせして来てもらいました。
そういえば、その時もあなたと似たような質問をされたな。
「四肢に欠損のあった男の子のことを覚えているか?」って。
俺とそいつは中学校から同じで、何かと話すことが多かったので俺を訪ねたんでしょう。
俺の記憶だと、その女の方があいつと仲が良かったから、今更俺の話を聞いてもなぁ……とか思いつつ、昔の思い出を少しだけ語りました。
そいつの名前ですか?
友達ですよ。そりゃ覚えてますよ……と言いたいところなんですけど、何故かその友達の名前が思い出せないんですよ。
その女の人と話した時も同じ状況でした。
二人ともそいつの名前が出てこない。
俺、高校の同級生の名前は全員覚えてたはずなんですけどね。
それに……ほら、なんというか……不謹慎ですけど、特徴がある分、名前が忘れられないっていう方がありそうなのに。
すみませんね、力になれそうになくて。
そうですか?そう言ってもらえると助かります。
女の子の方ですか。
名前は確か……あ、思い出した!志崎詩音って名前です。
彼女の名前まで忘れていたらどうしようかと思いますた。思い出せてよかった。
それで、今のでもう一つ思い出したことがあるんですよ。
彼女、僕との別れ際に「私と同じように彼のことを聞いてくる人がいたら渡して欲しい」って言って封筒を置いていったんですよ。
これなんですけど。
中身ですか?僕にもわからないです。
彼女は「その人はきっと分かるはずだから」って。
それに、彼女から中身は見ないように言われてたんで見てもないです。
こう見えて、僕は律儀なので。
いつでも渡せるように持ち歩いてて良かったです。
どうぞ。
彼女と彼の関係ですか?
誰がどう見ても仲良かったと思いますよ。
彼女は転校生だったんですけど、転校してすぐに彼とは打ち解けてて翌日からはずっと二人で一緒にいた気がします。
彼はあまり人と活発に関わる性格ではなかったので、あの二人がくっついたのは正直意外でした。
志崎さんの方は「可愛い転校生が来た」なんて噂になってたのに、もう男とくっついてるものだから色々言われてましたけど、二人はなんともない顔をしてましたね。
二人の世界があるみたいな。
なんだか羨ましいかったのを覚えています。
俺は人の目をよく気にしてしまうので、我が道を行くあの二人が特別に見えてたんですよ。
それに彼女、オカルト趣味?みたいなのがあったみたいで、教室でも雑誌広げてて、他の人に嫌厭されてた覚えがあります。
そのせいで、変な噂が流れたり、嫌な奴からはなんかされてたみたいですけど、彼女はそれを少しも気に止めてなかった様子でした。
まるで、視界の隅に映る小蝿みたいな。
心の広さが違ったんでしょうね。
移動教室がある時も彼女は彼の車椅子をいっつも押して移動してて、それを彼女はちっとも苦じゃないみたいな顔をしているところに器の広さを……。
……あれ?待って、いや、なんで?
確かに、志崎が彼の車椅子を毎回押してた……。
俺の記憶に間違いはないはず……。
あれ……。
志崎には両腕が無いはずなのに……。
………………。
……すみません。なんか俺、色んな記憶がごっちゃになってて、当時の記憶をそのまんま思い出せてないみたいです。
あんまり俺の話は信用しないでおいてください。
あ、でも、その封筒が彼女からのものだというのは確かです。
俺は何も手を加えてません。
もっとも、中を見たとしても俺にはそれの持つ意味は分からなかったと思いますけど。
彼女はいつも、何を考えているのかよく分からない人でしたから。