「気に入ってくれるといいんだけど」
建てたばかりの墓に線香をたいて、手を合わせた。
依頼人『志崎詩音』からの報酬金五百万から、形だけではあるが『志崎詩音』と『佐倉景』と二人の名前が刻まれた墓を作った。
二人で一つのお墓になったが、人一倍孤独に敏感で、孤独に苛まれた彼らにはこっちの方がいいだろうと思う。
墓の管理は、一度取材に応じてもらった、小説の中でいう庭瀬さんの寺に頼んだ。
お願いした時はどう言われるかと思ったが、彼は何も言わず二人を引き受けてくれた。
「お隣、失礼してもいいですか?」
「もちろん。庭瀬さん」
手を合わせていると、後ろから袈裟姿の庭瀬さんがやってきて、彼らの墓に黙祷を始めた。
「良かったんですか?報酬のお金をお墓に使ってしまって?」
「いいんですよ。元々高額すぎる報酬でしたから」
「優しいのですね」
そう言って、彼はまた墓に黙祷を捧げる。
「答え合わせをしましょうか。もう、呪いはこの世から無くなりましたから」
すると、庭瀬さんは黙々と語ってくれた。
「この呪いは、元々一つだけではなかったのですよ。ある時期に流行ってしまった呪いだったのです。探偵さんが見せてくれた『志崎』さんの小説でも書かれていましたが、家系図に偏りがあったり、写真の中で人が大量に居なくなっているのはそのせいなのです。佐倉家は裕福な家でしたから、妬みや怒りを買っていたのかもしれませんね。そして、呪いにかかった人は皆に忘れられながらどんどん亡くなっていった。『志崎』さんの言う通り、この呪いについての噂がないのは被呪者は皆死んでしまうからです。ですが、その呪いの大半は現代に至るまでに消滅していきました。隠していましたが、この呪いの解呪の方法は実は二通りあったのです。一つは『志崎』さんが実行した、誰も愛すことなく消えていく方法。これで呪いは行き場を無くし、消滅します。もう一つは、愛なんてものを知らない赤子に呪いを移し、感情の芽生える前に殺してしまう方法です。……こんなのやる人がいるのかと思うでしょう?ですが実際、昔はこの方法で解呪を行うのが主流だったようです。どんなに注意しても、人は人を愛してしまう。これが一番確実な方法で、昔の頭の固い人達はこの方法で無理やり解呪させていたそうです。逆に前者の場合は、事例は聞いたことがなかった程です。つまり、『景』君の代まで呪いが続いたいたあの筋の人達は、赤子を殺すことなんてできなかった心優しき人達だったのです。愛を捨てたれなかった。命を見捨てれなかった家系。だから、今の今まで呪いが残ってしまった。……これをあの二人にお伝えしなかったのは、『景』君のお父さんとの約束があったからなんです。お父様は『景』君を拾った時に、その解呪の方法が頭をよぎってしまった。まぁ、結局思い留まって、彼の命を助けたわけですが。でも、少しその考えがよぎってしまったことにずっと罪の意識を感じていました。だから、ずっと大切に大切に『景』君を育てた。そして、誠に自分勝手だけれど、『景』君がその事実に気が付いたりしないように、この方法を息子には伝えないでくれと。そう言われたのです。私も娘と息子の二人の子を持つ立場ですから、ついその切実な思いに乗ってしまいました。……僧が結婚してもいいのかって?日本では制度上は結婚しても問題ないのですよ。元々、私は真面目なお坊さんではありませんから。では、探偵さん。私はそろそろ行きます。気をつけてお帰りくださいね」
そう言って、彼は去って行った。
僕も墓の前から立ち、次に行かなければならない場所へと足を進めた。
建てたばかりの墓に線香をたいて、手を合わせた。
依頼人『志崎詩音』からの報酬金五百万から、形だけではあるが『志崎詩音』と『佐倉景』と二人の名前が刻まれた墓を作った。
二人で一つのお墓になったが、人一倍孤独に敏感で、孤独に苛まれた彼らにはこっちの方がいいだろうと思う。
墓の管理は、一度取材に応じてもらった、小説の中でいう庭瀬さんの寺に頼んだ。
お願いした時はどう言われるかと思ったが、彼は何も言わず二人を引き受けてくれた。
「お隣、失礼してもいいですか?」
「もちろん。庭瀬さん」
手を合わせていると、後ろから袈裟姿の庭瀬さんがやってきて、彼らの墓に黙祷を始めた。
「良かったんですか?報酬のお金をお墓に使ってしまって?」
「いいんですよ。元々高額すぎる報酬でしたから」
「優しいのですね」
そう言って、彼はまた墓に黙祷を捧げる。
「答え合わせをしましょうか。もう、呪いはこの世から無くなりましたから」
すると、庭瀬さんは黙々と語ってくれた。
「この呪いは、元々一つだけではなかったのですよ。ある時期に流行ってしまった呪いだったのです。探偵さんが見せてくれた『志崎』さんの小説でも書かれていましたが、家系図に偏りがあったり、写真の中で人が大量に居なくなっているのはそのせいなのです。佐倉家は裕福な家でしたから、妬みや怒りを買っていたのかもしれませんね。そして、呪いにかかった人は皆に忘れられながらどんどん亡くなっていった。『志崎』さんの言う通り、この呪いについての噂がないのは被呪者は皆死んでしまうからです。ですが、その呪いの大半は現代に至るまでに消滅していきました。隠していましたが、この呪いの解呪の方法は実は二通りあったのです。一つは『志崎』さんが実行した、誰も愛すことなく消えていく方法。これで呪いは行き場を無くし、消滅します。もう一つは、愛なんてものを知らない赤子に呪いを移し、感情の芽生える前に殺してしまう方法です。……こんなのやる人がいるのかと思うでしょう?ですが実際、昔はこの方法で解呪を行うのが主流だったようです。どんなに注意しても、人は人を愛してしまう。これが一番確実な方法で、昔の頭の固い人達はこの方法で無理やり解呪させていたそうです。逆に前者の場合は、事例は聞いたことがなかった程です。つまり、『景』君の代まで呪いが続いたいたあの筋の人達は、赤子を殺すことなんてできなかった心優しき人達だったのです。愛を捨てたれなかった。命を見捨てれなかった家系。だから、今の今まで呪いが残ってしまった。……これをあの二人にお伝えしなかったのは、『景』君のお父さんとの約束があったからなんです。お父様は『景』君を拾った時に、その解呪の方法が頭をよぎってしまった。まぁ、結局思い留まって、彼の命を助けたわけですが。でも、少しその考えがよぎってしまったことにずっと罪の意識を感じていました。だから、ずっと大切に大切に『景』君を育てた。そして、誠に自分勝手だけれど、『景』君がその事実に気が付いたりしないように、この方法を息子には伝えないでくれと。そう言われたのです。私も娘と息子の二人の子を持つ立場ですから、ついその切実な思いに乗ってしまいました。……僧が結婚してもいいのかって?日本では制度上は結婚しても問題ないのですよ。元々、私は真面目なお坊さんではありませんから。では、探偵さん。私はそろそろ行きます。気をつけてお帰りくださいね」
そう言って、彼は去って行った。
僕も墓の前から立ち、次に行かなければならない場所へと足を進めた。



