けいが目の前から居なくなって、私は途方もないほどの孤独感で泣き続けた。
喉が現在を迎えて声が出なくなった記憶を最後に、私は眠ってしまった。
起きたのはけいが居なくなってから一日後の夜だった。
丸一日眠っていたことに対しては、特に疑いは持たなかった。
ここ最近はずっと徹夜続きだったし、眠るまでずっと泣き続けてたから。
「けい……」
その声は潰れたような声で、喉からは焼けるような痛みが私を襲った。
それでも、私はベッドから動くことができなかった。
意を決して、ベッドから起き上がり、車椅子の方を見たが、そこには誰も居なくて、水を飲む前に家のあちこちを見て回った。
リビング、お風呂、トイレ、クローゼット。
「けい……どこに行ったの?」
その声にやはり返事は無い。
けいが居ないことなんてとっくに分かっているのに、その現実を受け入れることを拒否していることに気がつき、また涙が出そうになる。
それでもまだ信じたくなくて、家のあちこちを狂ったようにひっくり返した。
多分、自暴自棄になっていた。
けいが今までの私の人生の全てだったから、居なくなって私の中にぽっかりと穴が空いてしまったような感覚だった。
『絶対にけいは死なせない』
その誓いを守れなかった自分が心底許せなかった。
そんな時だった。
私がここに引っ越す時に持ってきたダンボールをひっくり返した時に、それは現れた。
「これって……けいの小説?」
高校生の時にけいに書いてもらったやつだ。
いつかこれが呪物となってこの先ずっと残るはずだから、と書いてもらった話。
そういえば、自分から頼んだくせに解呪の方法を探すことにつきっきりでこれの存在を忘れていた。
中身はホラー小説。話のモデルは、本人の口からは聞いていないけど、多分呪いについて。
自分にかかっている呪いを、怪物に置き換えて話が進んでいる。
それを読んで、けいとの高校時代の記憶が蘇り、何度もやるせない気持ちになる。
しばらく、その原稿用紙を見つめていると、ふと思いついた。
『佐倉景』はもうこの世界には存在しないけど、『佐倉景』がこの世界にいた証拠なら、いつまでも残すことができるのではないかと。
『絶対にけいは死なせない』
けいをこの世から存在を消させないこと。それが私達にできる最大の呪いへの対抗であり、私がやるべき事――けいを本当の意味で死なせないことなのではないか?
そう考えた。
色んなところにけいに関する話を立てよう。
そうだな……ずっと後まで残る話だ。怪談なんていいかもしれない。その手の話ならずっとオカルトを追っていた私にも心得がある。
小説家になるのだっていいかもしれない。けいの本を書くんだ。
そして、日本中に『佐倉景』の存在を知らしめさせる。
みんなの記憶の中に、『佐倉景』の存在を刻ませるんだ。
「今度こそ、絶対に成功させる。けいが確かに居たってことを、私と一緒に呪いに立ち向かったってことを、この世界に証明してみせる」
そうすれば、きっとけいは永遠に死なない。
同時に、もう一つ、別の決心をする。
「この呪いも、私で終わりにする」
私とけいが味わった苦しみを他の人には与えない。
けいも、けいのお父さんも呪いを消滅させることはできなかった。
それは、二人が愛に飢えていたから。
最初からずっと孤独で、最初からずっと普通の、呪いなんてものには縁のないはずだったごく普通の人間だったから。
でも、私は違う。
私はけいと一緒に過ごして、孤独じゃない時間を知っている。
これからの一人の時間が苦しくっても、私の記憶の中にはけいがいる。
今までの思い出を思い出していれば、きっと耐えられる。
だって、世界で一番楽しかった時間を知っているから。
そして、私はけいとは違って『異端』な人間だから。
この言葉はずっと私の足枷だった。
でも、今はこれのおかげで私はけいに出会えて、世界一楽しい時間を過ごせた。
だから、今はもうこの言葉を嫌ってなんかいない。
私はそれを受け入れて生きていく。
「見ててね、けい」
やることは決まった。後はやるだけだ。
「必ず、成功させて見せるから」
そして、テレビで『ずっと行方不明だった女児を発見した探偵』のニュースを見て、この人に私の遺作を見つけて貰おうと思い立って計画を起こしたのはその後すぐのことだった。
喉が現在を迎えて声が出なくなった記憶を最後に、私は眠ってしまった。
起きたのはけいが居なくなってから一日後の夜だった。
丸一日眠っていたことに対しては、特に疑いは持たなかった。
ここ最近はずっと徹夜続きだったし、眠るまでずっと泣き続けてたから。
「けい……」
その声は潰れたような声で、喉からは焼けるような痛みが私を襲った。
それでも、私はベッドから動くことができなかった。
意を決して、ベッドから起き上がり、車椅子の方を見たが、そこには誰も居なくて、水を飲む前に家のあちこちを見て回った。
リビング、お風呂、トイレ、クローゼット。
「けい……どこに行ったの?」
その声にやはり返事は無い。
けいが居ないことなんてとっくに分かっているのに、その現実を受け入れることを拒否していることに気がつき、また涙が出そうになる。
それでもまだ信じたくなくて、家のあちこちを狂ったようにひっくり返した。
多分、自暴自棄になっていた。
けいが今までの私の人生の全てだったから、居なくなって私の中にぽっかりと穴が空いてしまったような感覚だった。
『絶対にけいは死なせない』
その誓いを守れなかった自分が心底許せなかった。
そんな時だった。
私がここに引っ越す時に持ってきたダンボールをひっくり返した時に、それは現れた。
「これって……けいの小説?」
高校生の時にけいに書いてもらったやつだ。
いつかこれが呪物となってこの先ずっと残るはずだから、と書いてもらった話。
そういえば、自分から頼んだくせに解呪の方法を探すことにつきっきりでこれの存在を忘れていた。
中身はホラー小説。話のモデルは、本人の口からは聞いていないけど、多分呪いについて。
自分にかかっている呪いを、怪物に置き換えて話が進んでいる。
それを読んで、けいとの高校時代の記憶が蘇り、何度もやるせない気持ちになる。
しばらく、その原稿用紙を見つめていると、ふと思いついた。
『佐倉景』はもうこの世界には存在しないけど、『佐倉景』がこの世界にいた証拠なら、いつまでも残すことができるのではないかと。
『絶対にけいは死なせない』
けいをこの世から存在を消させないこと。それが私達にできる最大の呪いへの対抗であり、私がやるべき事――けいを本当の意味で死なせないことなのではないか?
そう考えた。
色んなところにけいに関する話を立てよう。
そうだな……ずっと後まで残る話だ。怪談なんていいかもしれない。その手の話ならずっとオカルトを追っていた私にも心得がある。
小説家になるのだっていいかもしれない。けいの本を書くんだ。
そして、日本中に『佐倉景』の存在を知らしめさせる。
みんなの記憶の中に、『佐倉景』の存在を刻ませるんだ。
「今度こそ、絶対に成功させる。けいが確かに居たってことを、私と一緒に呪いに立ち向かったってことを、この世界に証明してみせる」
そうすれば、きっとけいは永遠に死なない。
同時に、もう一つ、別の決心をする。
「この呪いも、私で終わりにする」
私とけいが味わった苦しみを他の人には与えない。
けいも、けいのお父さんも呪いを消滅させることはできなかった。
それは、二人が愛に飢えていたから。
最初からずっと孤独で、最初からずっと普通の、呪いなんてものには縁のないはずだったごく普通の人間だったから。
でも、私は違う。
私はけいと一緒に過ごして、孤独じゃない時間を知っている。
これからの一人の時間が苦しくっても、私の記憶の中にはけいがいる。
今までの思い出を思い出していれば、きっと耐えられる。
だって、世界で一番楽しかった時間を知っているから。
そして、私はけいとは違って『異端』な人間だから。
この言葉はずっと私の足枷だった。
でも、今はこれのおかげで私はけいに出会えて、世界一楽しい時間を過ごせた。
だから、今はもうこの言葉を嫌ってなんかいない。
私はそれを受け入れて生きていく。
「見ててね、けい」
やることは決まった。後はやるだけだ。
「必ず、成功させて見せるから」
そして、テレビで『ずっと行方不明だった女児を発見した探偵』のニュースを見て、この人に私の遺作を見つけて貰おうと思い立って計画を起こしたのはその後すぐのことだった。



