ある時から、貴女は起床が上手くできなくなった。それに付随して仕事も辞め、めっきり外出もしなくなり、ずっと家に引きこもっている。そんな貴女の現状を甘えだと言う人がいる。ずるいと罵る人がいる。ごめんね、私も同じ気持ちだ。社会の枠組みにぎりぎり踏みとどまれてしまう私は、貴女が心底憎い。
聡明で美人な貴女は本当によくモテるので、もういっそ殺すしかないなと思った。貴女と容姿を比べられるのも散々だし、何より他の人間に貴女を取られるくらいなら、貴女の存在ごと消し去ってしまう方がよほど健全だろう。夜中にアパートに忍び込んで、貴女の寝込みを襲う。その胸にナイフを突き立てる。
私は自室で、買って間もないアイシャドウを砕いていた。固形のシャドウをブラシの持ち手で引っ掻くと、瞬時に粉々になって、ティッシュペーパーの上にきらきらと舞った。それは通常の状態よりも、ずっと綺麗に見える。「いつかあたしの期限が切れたら、こんなふうに輝かせてね」と貴女が冗談を言った。
貴女はいつしか、「長い期間の幸福よりも、一瞬の悲しみの方に囚われてしまうのは、あたしの性質の問題なのかな」と私に言った。だから一か八か、私は貴女に最低な方法で別れを告げてみたんだけれど、言わずもがな惨敗した。そっか、と貴女が平然と笑うから、私はこの瞬間の悲しみに囚われ続けている。
月曜の朝は、貴女がいつになく憂鬱そうにするから好きじゃない。控えめに言って、月曜の朝を撲滅してやりたい。無理しないでね、とか言えたら良いんだけれど、現実はそんなに簡単じゃないから。気休めにしかなり得ない言葉は、余計に貴女を苦しめるかもしれないから。どうか何も言えない私を許してね。
貴女の自己肯定感は常に、地の底まで落ちきっている。加えて被害妄想が激しくて、誰にも自分を傷つけさせまいと、過剰な自衛に走る傾向がある。「もし生まれ変われるとしたら、あたしになりたい?」ある時、貴女は私にそんなことを尋ねた。「なりたくないな」と答えて、私は何となく手首の古傷を庇う。
放課後になると、私はいつも教室に居残る。そうして今日も夜遅くに帰宅したのだけれど、玄関に上がるなり、居間から母親のヒステリックな叫びが聞こえてきた。うんざりした私は、結局近くの公園に避難する。園内ではすでに同士の貴女が待ち受けていた。「おかえり」と貴女が言うから、泣けて仕方ない。
下戸なくせして酒豪に憧れている貴女は、深夜にコンビニで大量のお酒を買ってきた。貴女の無謀な計画に付き合ってあげる私。しかし案の定、貴女はチューハイ二缶で酔い潰れた。呼吸が荒くなり、滑らかな肌が斑に赤くなっている。今にも死にそうな貴女が愛おしくて、思わずその上気した頬に口づけする。
「二十歳を迎えるまでには死にたいよね」というのが貴女の口癖だった。「老いてまで生きていたくないしさ」とも言っていた。けれど、貴女はなかなか死ななくて、来月には二十五になる。私はたまらず、「ねえ、いつ死ぬの?」と尋ねた。「もし、三十になっても生き延びちゃったらさ、あたしを殺してよ」