生きてると苦しいことばかりで、気づいたら「死にたい」が口癖になっていた。深夜にお気に入りのアイスクリームを食べながら、死にたいと私が言うと、貴女が過度に心配してくれたのを覚えている。そんな貴女は一年前に自殺した。絶望した私は跡を追おうとしたけれど、縄を持つ手が震えて仕方なかった。
不慮の事故で幽霊になって、貴女のアパートに住み着いている。私の死後、貴女は長い期間塞ぎ込んでいて胸が痛かった。けれど数年も経てば、貴女の周りは賑わうようになる。以前より友人も増え、新たに恋人もできたようで何よりだ。ようやく私も成仏していく感覚があって、自分の一途さに笑うしかない。
才色兼備で優等生な貴女は、学内で天使と呼ばれている。けれど、天使には裏の顔があるのだ。そのことを私だけが知っている。帰りに寄ったファミレスで、貴女は一日の愚痴を吐きだす。担任教師やクラスメイトを盛大に罵った後、弱々しい声音で「泣いてみてもいいかな」と言う。「いいよ、私の前だけね」
眠れない、眠れない、眠れない。ベッドで横になり目を瞑ること三十分。一向に寝られなくて困る。明日はデートなのに。果たして、翌日の私は貴女との待ち合わせに遅刻してしまった。貴女は平然と私の失態を許容して、遅れた時用のデートプランを提示してきた。少しくらいは怒ってくれないと不安になる。
目が覚めたら枕もとに貴女が二人いた。どちらかは偽者のはずだけれど、全く見分けがつかない。そしてなぜだか、私の手には玩具みたいな拳銃が握られている。どうやらタイムリミットまでに、どちらかを撃たないと貴女は消滅してしまうらしい。試しに銃口を向けると、片方の貴女が心底嬉しそうに笑った。
「自分のことを好きにならない人がタイプなの」と貴女が言うから、私は貴女を好きにならないよう、精一杯努めてきた。それなのに、貴女はこの間学内で知り合ったばかりの男の子に告白されて、あっさりと交際を了承した。後に詰問してみたら、それでも尚好意を寄せてくれる人が好きとか、聞いて呆れる。
私のヒモをやっている貴女は、人のお金で好き勝手遊び、楽しそうに生きている。仕事して帰ってきて、リビングのソファで寛いでいる貴女を目にすると、まあそれなりに腹が立つ。けれど、時折深刻そうな表情で、「あたし、生きるのに向いてないみたい」とか言われると、同情心が湧く。「分かるよ。私も」
何を企んでいるのか、突然貴女は惚れ薬とやらを買ってきた。本当に効果があるのか試してみたいんだそうだ。その被験者に選ばれたのは当然私。説明書に書いてある通りに、私は貴女のことを強く思い浮かべながら、得体の知れない錠剤を呑み込む。でも、結論から述べてしまうと、こんなの無意味だ。だって
左内腿にある生まれつきの痣がコンプレックスであることを、以前貴女が教えてくれた。それから付け加えるようにして、「絶対好きな人には言えないけどね」とも言った。あれから数ヶ月の時が過ぎ、向かいの席に座る貴女が「そういえば、あんたのコンプレックスは?」と問うから、私は途端に悲しくなる。