「管理人さんは思い出したくないの?記憶」

「思い出せないなら、それでもいいかな
自殺するくらいなんだから
ろくな人生じゃなかっただろうし」

「………大事な人とか
大切なものがあったかもしれないのに?」

「そうじゃないかもしれない」



あったとして、それを思い出したからといって
なんになるのか


もう、自分は死んでいて
会うことも、話すことも、触れることも叶わない

いくら焦がれようと
もう、それを手にすることはできないのだから


何の意味もない


むなしいだけだ



「……って、俺は思うけど
そうじゃない人も、たくさん見てきたからなぁ」

「?」

「こっちの話」



記憶を取り戻して
生前味わった、痛みや苦しみを思い出して

でも、同時に

喜びや幸せも思い出して
泣きながら笑う人を見た


大事なものを
それがあった人生を愛しいと、幸せだと
満ち足りた顔で話す人もいた


もう2度と、会えなくても、話せなくても
その記憶があるだけで充分だと
大丈夫なんだと、進んだ人がいた


色んな人間がいた



「多分、きみもそうなんだと思うよ」

「??」

「こっちの話」



心の中と外での俺の独り言に
不思議そうに首を傾げる彼女

そんな彼女の手を引いて、俺は歩いた