翌日、すっかり落ち着いた様子の彼女は言った



「多分ね、「今」の私が出会ったの」

「その姿の時に出会った?」

「うん。7歳くらいかな」



彼女はもう
大体の人生の記憶を取り戻していた

生まれてから、死ぬまでの記憶


彼女の享年は91
随分長生きしたそうだ


生まれたのは、あの祖母の家

18歳まで
都会で両親と妹と一緒に暮らし

就職を機に
祖母の家のある田舎町に越してきて

その田舎町で出会った人と結婚して

子供を産んで


苦しいこと、辛いこと、大変なことも
たくさんあったようだけど
それ以上に、幸せな日々を送って

眠るように、穏やかに亡くなった



「なんか、不思議だね
思い出して、解ってるけど
この姿のまま、中身もまだそうなのって」



頭の片隅には
実年齢相応の知識と記憶を持った自分が
ちゃんといるものの

「今」の彼女を動かして
支配しているのは、7歳の頃の幼い自分


多少、影響を受けて
使う言葉や話し方は、大人びてきているけど
感覚や感じ方は、そちらの方が強いようだ



「人によって色々だよ
きみの場合は、7歳の自分が感じたこと
見たもの、聞いたこと、在った出来事を
思い出したいって、強く思っているから
そうなってるんじゃないかな」

「そっか」

「何か思い出しそうなことない?」

「うーん…」