ほどなくして家の外に車が止まる音がして、一人の女性が飛び込んできた。
「お母さん、お母さん!大丈夫? 今、お医者さんを連れて来たから‥‥‥」
泰地は聞き覚えのある声に振り向いた。そこには見慣れた女性が、アロハシャツに短パン姿の男性の医師を連れて立っていた。
「あれ、あれ、…クワン?」 驚いて泰地は眼をパチパチと何度も閉じて、クワンをまじまじと見る。
「あれ?あなた、どうしてここにいるの? どういうこと? お母さんは?」
とクワンもびっくりした顔で泰地に訊いた。母に駆け寄ったクワンは、母の容態が安定し小さな寝息を立てて眠っているのを確認しほっとした。レックが事の次第を詳しくクワンに説明した。クワンは大きく息を吐いて、
「隣町の病院までお医者さんを呼びに行ってたの、今日は病院も休みで、このお医者さんがお祭りに出かけるところを頼み込んできてもらったのよ‥‥‥」
クワンはアロハシャツの男をちらりと見た。くだけた服装からどう見ても医者には見えなかったが、彼は落ち着いてクワンの母親の元へ座って脈を測ったり、胸部に聴診器を当てたりしていた。
「明日一番に私の病院へ来てください‥‥‥精密検査をしましょう」
その医者は母の常備薬を追加しクワンに手渡した。一通り診察が終わり、母の容態も落ち着いたので、レックが医者の男性を家まで送っていった。
「まさか、あなたがここにいるとは夢にも思わなかったわ‥‥‥本当にありがとう」
クワンは無意識に泰地の手を取って額をつけて感謝の意を表した。はっとしてクワンは顔を上げて、そして泰地に訊ねた。
「でも、どうしてここにいるの?」
母を助けてくれたことには感謝の気持ちでいっぱいだったが、なにより泰地が自分の家に来て、そして母親の命を救ったことが最大の疑問だった。
「いや、あの、その‥‥‥。レックさんとマーケットで会って、その、大福餅を買って帰ろうとした時に「医者はいませんか」と叫んでいたので咄嗟に反応して‥‥‥」
泰三は旨く言えないが概ね正しく説明したつもりだ。
「それでここまで来てくれたの?」 とクワンは経緯が徐々に理解できた。
彼女は、心臓が悪い母親をバンコクへ連れて行き大きな私立病院で治療してもらおうと考えていたが、不安は募るばかりだった。
「でもここがクワンの実家だったとは、僕も夢にも思わなかったよ」
二人は落ち着きを取り戻し、家の外へ出た。庭先の灯りがうっすらと二人の頬を照らしていた。
「あの、佐藤さん、今日は本当にありがとう、あなたがいなければ母さんは‥‥‥」
クワンは泰地に向かって両手を併せて深いお辞儀をした。
「医者の使命さ……」と泰地は笑った。
二人は田んぼが見える裏庭の木の椅子に腰を下ろして、ふぅーっと一息ついた。
真っ暗な田んぼの上を沢山の蛍が飛び回り水面を黄色く照らしていた。
「蛍を見るのも久しぶりだわ‥‥‥」
二人の肩に留まった二匹の蛍の光がお互いの顔を優しく照らしていた‥‥‥
「お母さん、お母さん!大丈夫? 今、お医者さんを連れて来たから‥‥‥」
泰地は聞き覚えのある声に振り向いた。そこには見慣れた女性が、アロハシャツに短パン姿の男性の医師を連れて立っていた。
「あれ、あれ、…クワン?」 驚いて泰地は眼をパチパチと何度も閉じて、クワンをまじまじと見る。
「あれ?あなた、どうしてここにいるの? どういうこと? お母さんは?」
とクワンもびっくりした顔で泰地に訊いた。母に駆け寄ったクワンは、母の容態が安定し小さな寝息を立てて眠っているのを確認しほっとした。レックが事の次第を詳しくクワンに説明した。クワンは大きく息を吐いて、
「隣町の病院までお医者さんを呼びに行ってたの、今日は病院も休みで、このお医者さんがお祭りに出かけるところを頼み込んできてもらったのよ‥‥‥」
クワンはアロハシャツの男をちらりと見た。くだけた服装からどう見ても医者には見えなかったが、彼は落ち着いてクワンの母親の元へ座って脈を測ったり、胸部に聴診器を当てたりしていた。
「明日一番に私の病院へ来てください‥‥‥精密検査をしましょう」
その医者は母の常備薬を追加しクワンに手渡した。一通り診察が終わり、母の容態も落ち着いたので、レックが医者の男性を家まで送っていった。
「まさか、あなたがここにいるとは夢にも思わなかったわ‥‥‥本当にありがとう」
クワンは無意識に泰地の手を取って額をつけて感謝の意を表した。はっとしてクワンは顔を上げて、そして泰地に訊ねた。
「でも、どうしてここにいるの?」
母を助けてくれたことには感謝の気持ちでいっぱいだったが、なにより泰地が自分の家に来て、そして母親の命を救ったことが最大の疑問だった。
「いや、あの、その‥‥‥。レックさんとマーケットで会って、その、大福餅を買って帰ろうとした時に「医者はいませんか」と叫んでいたので咄嗟に反応して‥‥‥」
泰三は旨く言えないが概ね正しく説明したつもりだ。
「それでここまで来てくれたの?」 とクワンは経緯が徐々に理解できた。
彼女は、心臓が悪い母親をバンコクへ連れて行き大きな私立病院で治療してもらおうと考えていたが、不安は募るばかりだった。
「でもここがクワンの実家だったとは、僕も夢にも思わなかったよ」
二人は落ち着きを取り戻し、家の外へ出た。庭先の灯りがうっすらと二人の頬を照らしていた。
「あの、佐藤さん、今日は本当にありがとう、あなたがいなければ母さんは‥‥‥」
クワンは泰地に向かって両手を併せて深いお辞儀をした。
「医者の使命さ……」と泰地は笑った。
二人は田んぼが見える裏庭の木の椅子に腰を下ろして、ふぅーっと一息ついた。
真っ暗な田んぼの上を沢山の蛍が飛び回り水面を黄色く照らしていた。
「蛍を見るのも久しぶりだわ‥‥‥」
二人の肩に留まった二匹の蛍の光がお互いの顔を優しく照らしていた‥‥‥