「うーん、って言うより作れる道具の幅を広げるために、世界各地を回って色んな素材を集めてるって感じかな。手持ちの素材の種類が増えるほど、作れる道具の種類も増えるから」

 色々な素材を掛け合わせて未知の道具を手掛けていくのは、中身のわからない宝箱を一つ一つ開けているみたいなワクワク感があるのだ。
 その過程でたまたま実用的な道具を生み出すことができたら、嬉しさはひとしおである。

「それでピケちゃんと一緒に二人旅ですか。とても楽しそうですね」

「まあね。ピケも色んな人たちと触れ合えて嬉しそうだし」

 魔物の討伐も代わりにやってくれるし、ついて来てくれて本当に助かっている。
 そんな話をしながら、闇夜の外套のおかげで魔物に気付かれずに、だいぶ奥地の方へと進むことができた。
 進むほどに木々の密集が激しくなり、日差しが遮られて辺りが暗くなっていく。
 視界も不明瞭になってきたので、俺は暗視効果を付与してくれる『猫目の奇薬(きやく)』をバラシアと共に服用した。
 腰つけのランタンを灯すという選択肢もあったが、魔物に気取られるリスクを減らすために光の類は使わないことにする。
 またしてもバラシアが新しい道具を見て驚愕したような顔をしてくれて、そんな反応をしてくれるのが嬉しいからまたぞろ何か道具を出したい気持ちにさせられた。

「確か、日差しが完全に遮られた辺りから、例の『天涙草(てんるいそう)』の群生地だと聞いています」

「となるとこの辺からってことか……」

 暗視効果の薬のおかげで、暗闇の中でも薬草を見つけることはできる。
 ただ、色々と他にも薬草が生えているから、見分ける方に苦労しそうだ。
 そうでなくとも天涙草(てんるいそう)は希少素材らしいし、おまけにあちこちに香り高い薬草が生えているから匂いを辿ることもできなそうだし。
 ともあれどんな見た目の薬草か聞いておこうと思って、バラシアに問いかけようとした瞬間――

「あっ、ありました!」

 彼女はすぐに声を上げた。
 バラシアが指で示した方を見ると、白い茎に青色の葉を茂らせた薬草が、他の薬草たちに囲まれながら控えめに数本だけ生えていた。
 どことなく神々しい見た目の薬草である。

「あれが天涙草です。話に聞いた見た目とばっちり一致します。まさかこんなに早く見つかるなんて……。ほ、本当に希少素材って言われてるんですよ!」

「別に疑ってないから大丈夫だよ」

 探しても全然見つからなかったと前もって言った手前、嘘を吐いたと思われたくなくてかバラシアは必死に弁明してきた。
 けどそこは別に疑っていない。
 やっぱり俺は運がいいってことだ。
 それに薬草も見たところ五本はあるので、バラシアのお母さんの分と、俺の道具作りの試作用で量もちょうどいいんじゃないかな。
 というわけでさっそく採取しようと思って、バラシアと一緒にその薬草の元まで近づこうとするが……

「あっ、待ってバラシア!」

「えっ?」

 俺は足を止めて、同時にバラシアも呼び止めた。
 刹那、視界の先にあった巨木の裏から、わらわらと自立歩行する花たちが這い出てくる。
 さっきバラシアを襲っていたのと同種の植物種の魔物たち。
 そのまま薬草を採りに行っていたら、あっという間に囲まれて花たちの餌食になっていたかもしれない。

 バラシアは複数体の魔物が現れて、バタバタと慌てながら俺の後ろに逃げ込んでくる。
 同時にピケがすかさず俺の懐から飛び出して、元のサイズに戻りながら臨戦態勢になってくれた。
 思いがけない会敵だが、ピケに任せれば問題なく突破できるはず。
 と思ったけれど、ピケはキョロキョロと視点が定まっていないように、首をぶんぶんと振っていた。

「そうか、この暗闇で……」

 ピケは俺やバラシアのように暗視薬を飲んでいないから、暗闇の中で魔物の姿を上手く視認できていないのだ。
 これでは戦うのが難しい。
 となれば、猫目の奇薬(きやく)をピケにも飲ませるか?
 いやでも、あくまでこれは人間が服用することで効果を発揮するものだ。
 ピケにも適応させるかもしれないけど、逆に体に悪い影響を及ぼす可能性もある。
 人と体の構造が違うピケにとって、薬ではなく毒になってしまうかもしれない。

 それなら嗅覚を使って敵の位置を探ってもらえば、と考えるけれど、すぐに自分の考えにかぶりを振る。 
 この辺りには様々な薬草が群生しているせいで、色々な匂いが充満している。
 嗅覚を頼りに戦うのも無理だろう。事実、ピケの鼻は機能しておらず魔物の位置がまったくわかっていない様子だった。

「ど、どうしましょうフェルトさん……!」

「うーん……」

 たぶん薬草は別の場所にも生えていると思う。
 だからここは身の安全を考慮して離れた方がいいかもしれないが、いくら俺の運がいいからと言ってまたすぐに天涙草が見つかるとは限らない。
 ただでさえ希少素材と言われているし、何より五本もまとまって採取できる場所はここ以外に無さそうな気がする。
 どう考えても手っ取り早いのは、目の前のこいつらを討伐してそこにある天涙草を採取することだよな。
 ……仕方ないか。

「バラシア、ピケと一緒にちょっとここで待ってて」

「えっ?」

 俺はピケの代わりに前に出る。
 そして手早くアイテムウィンドウを操作して、一本の真っ赤なナイフと青い指輪を取り出した。
 それを装備したのち、俺は地面を蹴って魔物たちへと接近する。
 上位の戦闘職を持つ超人たちに劣らないほどの超速度で。