─────『お前やっぱり可愛いね』
─────『また明日の夜会いに来るから』

昨日の夜からずっと、夏川と名乗った死神のことを考えている。

ひどく綺麗な顔をして、冷たくもあたたかくもないぬるっとした手の温度に、どこか感情がないような冷静さを纏っていて。現実味を帯びていない“死神”というワードがどこかしっくりきてしまう、そんな(ひと)だった。

ナツカワ。夏川。シニガミ、死神……。ぐるぐる考えていたせいで寝不足のまま起きた朝、テレビのニュースで昨日の事故が取り上げられていた。やっぱり結構大きい事故だったみたい。


『昨夜19時頃、○○市内○○交差点十字路付近にて。4トントラックが電柱にぶつかる事故があり、国道ーー号線では3時間にも及ぶ大渋滞が発生しました。車体は横転と同時に左側が大きく破損、運転手は助骨を折る重傷ですが命に別状はないとのことです。幸いにもこの事故で他の怪我人はありませんでした』

『巻き込まれる歩行者がいなかったのが不幸中の幸いですね。しかしこの事故、運転手は飲酒運転だったんですよね?』

『そうなんです、事故原因は運転手のアルコール摂取による飲酒運転で、検出された体内のアルコール度数は基準値の6倍以上だったとか─────』


テレビの中で、ニュースキャスターとコメンテーターが交互にそう話すのをどこか上の空で聞いていて、その内容が昨晩夏川くんから聞いたものと完全に一致していることに鳥肌が立った。

あの時あの瞬間、事故を起こした張本人である運転手しか知り得ないことを飄々と言ってのけたこと。それに、夏川くんは事故から背を向けていたのだ。視覚から読み取ったわけでもない。

あまりに冷酷な瞳を思い出して身震いする。わたしが死ぬはずだった事故。それから、代わりに誰かを殺すと言う夏川くん。


─────『殺したい奴決めといて』
いないよ。いるわけない。だけど、決めなきゃわたしが死ぬかもしれない。

誰もいない殺風景な広いリビングで、わたしは味気ない朝ご飯のトーストを囓った。