(side 夏川) 



生前の自分の人生について、覚えていることなんて殆どない。

正直死神なんていう職業は感情が欠落した人形みたいな奴か、心底意地の悪い悪人みたいな奴か、頭のおかしい人間のなりそこないみたいな奴しかいない。死神といえど俺たちは元々人間で、何度も誰かの死に際を管理するほど強くはできていないのだ。

だからきっと、所謂“死神になる死者”に選ばれた。俺が感情のない人間だったから。

記憶はほとんどないけれど、たぶん俺は感情という人間の性質がどこか抜け落ちていて、悲しいとか嬉しいとか、ましてや誰かを恋しいだとか、そういうものがなかったように思う。


だから驚いた。初めてりりこを見た時。思考より先に感情が動いたのは多分生きていた時も死んでからも初めてのことだと思う。
一目惚れだった。気づけば生かしていた。あの日、トラックに轢かれて死ぬはずだった女の子のこと。


─────ああ、欲しい。この子のこと。

知れば知るほど惹かれて仕方がない。息苦しい世の中で、必死にもがいて、ひとりぼっちで、けれどひどく勇敢な目をしているこの女の子のこと。

殺すのは勿体無い。どうせなら俺のものにしたい。
人が死ぬのなんてなんとも思ったことがなかったのに。

─────はじめて思った、誰かを生かしたいなんて。