4月一日  聖帝学園エントランス
そこは、今や軽く一千人を超える受験会場となっていた。




『うわ、何だよこの問題……。  【ベートーヴェンの彼女の人数を答えよ】とか誰も知らねーぉ………。』
オレの名前は (金木 共鳴)カネキ トモナリ 受験番号は971番、歳は15、彼女は…。全力募集中。
  いやそんな事はどうでもいい!  何だよこのテストは‼️ 俺らに解かせる気はあんのかよ‼️‼️
 『ハァ……。』
隣の席の427番、以下にもガリ勉です!オーラを醸し出すメガネ男子も溜息をつき、頭を抱えてる。そりゃそうだ、さっきからまともな問題が一つもないんだから……。
 【モーツァルトが書ききれなかった曲の数は?】……モーツァルトに聞けよ。聞く相手はオレじゃない。
 【世界で最も長いボカロ曲のタイトルは?】…オレの実家Wi-Fi無かったんだよ!ボカロ聞いた事ないの!
 次のページには、見開きの楽譜が載っていた、
  【この曲について貴方はどう思いますか?  音楽理論を使った理由と共に答えよ】…………。
……………。
 …。知るかよボケエエェ‼️‼️

 ああぁ……。 なんなんだこれはよぉ〜…。 夢なら醒めてくれぇ!
もういいや、全部『35個です』とでも書いてやろうか……。35個の彼女……。ベートーヴェン……。 …。

 オレたちの目の前には、なんか怪しげに煌る砂時計⏳が置かれている。これが、この砂の尽きるまでが即ちオレらの生命の、タイムリミットって事か。
 見たところ、あと十五分ってとこだろーな、
よし!気にしたってしゃーなし! 俺のハムスター並みの頭脳でも解ける問題を探して、せめてもの悪あがきだ!
 オレは両手で頬を力一杯叩く。 よし、やってやる‼️
『………。 チッッッ!  マジ五月蝿いんだけど……』
……。
……。 『 すいません…………。』
『ハァ……。』
前の席から御最もな御指摘を受けてしまった。番号は115番、声的におそらく女子だ、水色のポニーテールが優雅になびく。エアコンの風で。
無茶苦茶なテストに対して、みんなイライラし出してる。あちこちから試験をリタイアして帰っていく背中が見える。

 
隣のメガネはどんな感じだろう? まぁ、みんなそろそろ俺みたいに集中を切らしてる頃だろしーな、ふと視線を合わせると、
………。一心不乱にテストを解き続けている。
 

 おい、嘘だろ?
分かるのか?  これが。  信じられない………。
さっきの溜息は…。 もしかして集中のスイッチを入れる深呼吸だったのか!?
メガネは俺が見えないかのように、えげつない集中力で試験に喰らいつく。
一瞬見えた眼鏡の奥の眼差しは、俺とは、他の人とは違う気迫の宿った鋭い眼光が覗いた……気がする。
その気迫になんか圧倒されるかのような気分になり、それからはオレも、ただひたすらに、気合いで我武者羅に試験に取り掛かった。





『終了‼️ 解答を止めろ。』
 お、終わった〜〜ー!  ……。二つの意味で。
解答は聖学の教師陣、精鋭部隊で即座に丸つけされるので、昼食を兼ねた約一時間の休憩時間の後に結果が、『二次試験「初見演奏」』へ行けるかがデカい声で発表される。


 試験終了後、皆はようやくホッとしたように各々の弁当を開け出す。オレはさっきの覚醒が気になって、弁当の包みを開いている隣の席のメガネに話しかけた。
『なぁメガネ!!  さっきのテスト、お前どうだった?』
『め、…メガネ?』
 見ず知らずの俺に急に話しかけられたことにビビったのか、メガネはキョどる。なんか様子がさっきと全然違う…。本当に同一人物か?
 『あの、僕の事ですか?』
 『そう!』
 『その…。できれば名前で呼んでください…。
    僕の名前は…。白黒タクトって言います。』


 『白黒』タクト⁉️ その苗字、何処かできいたことがある気がする……。 なんだっけな?
  ……。まぁいっか!  ちょっと珍しいだけで、よくある普通の名前だし。

 『分かった!!  よろしくな、メガネ!!』
  『……。はい!』

  ふと視線を下ろすと、メガネの弁当が見えた。
そういやコイツは何食べるんだろーな……。  見えるのは、白米と、………。白米。
        え?  どゆこと?
  『なぁ、お前昼ご飯そんだけ?  足りないんじゃ?』
  『大丈夫です。』
  『足りる?』
  『大丈夫。』
  『………。』 
  『……。大丈夫です…。』
 しばし沈黙。
  『大丈夫な訳ねーーだろッッッ‼️ ダイエットかお前⁉️』
  『すみません……。実は、僕も教授も、そんなにお金持ってなくて……。』
  教授?
  『はい、僕両親が居なくて、今は教授の家に居候してて……。「天音五線」っていう人なんですけど。』
そ、その名前は……!
  『あ、あの天音五線教授‼️‼️』
  『あれ、もしかして知り合いですか?』
  『そうじゃねー、有名人だよ!! 聖帝学園の伝説の教師!  レジェンド!!
       なのにある日、突然学園を辞めて、行方不明になったって聞いてたけど…』
  『教授が…。あの人、そんな偉い人だったんですね!』
  『マジで‼️ お前、それ知らなかったのかよやべぇな!  』
  『はい……。 それで教授に、昼食に何か買っても良いとは言われてたんですけど、申し訳無くて…。』
コイツ、こう見えて意外と苦労してたんだな……。
  ……。
  『お前、何かアレルギーとかある?』
  『え?』
  『い、一応ない、はずですけど……。』
  『俺の弁当、そこの売店で買った奴なんだけどさ、ちょっと多くて…。俺減量中だからさー。
                               もしよかったら、ちょっと食べる?』
  『!?』
  『いる?』
激しく取り乱すメガネ。…。流石に失礼だったかな?
  『……。本当に、減量中なんですよね?』
  『あぁ、俺ダイエット中なの。』
  『た、卵焼きと唐揚げを…。貰ってもいいですか?』
よりにもよってオレの二大好物。
   『 そんなにかしこまるなよwww 唐揚げと卵焼きね! ………ほら!』
 受け取ると、メガネは拾われた子犬の様に瞳を潤つかせた。
   『ありがとうございます‼️ 本当にありがとうございます!』
そう言ってメガネは、感謝に満ちた眼差しで俺を見る。
   『気にすんなって!! それに…。俺らもう友だちだろ?』
   『……!』
   『はい‼️ありがとうございます!』
 そうして、少しばかりの安らいだ時間を過ごし、

アナウンス 【受験者の皆様、今より筆記テストの結果を発表致しますので、エントランスホールに御集まり下さい】

……。現実のお時間です。はい、来てしまった……。



エントランスに着くと、そこには既に合格者の番号が印刷されたポスターがでかでかと張り出されていた。
馬鹿でかい歓喜の雄叫びをあげる奴、放心状態の奴…。
最早、そこは熱帯雨林のジャングルと化していた。
あぁ……。オレはどうだった?見たいような、見たくないような…。
とうとう覚悟した。
意を決して、前へ出る。人と人の荒波をかきわけ、押し退け、押されながら…。


【合格者番号】
802番
965番、
……。978番


……。


.....。 971番!!‼️


う、受かったぁぁァァァ‼️

「 受かった‼️ 」
隣から聞き覚えのある声がする。どうやらメガネも大丈夫だったらしい。

『よぉメガネ‼️ どーやら……お前も行けたらしいなぁ!おめでと‼️』
『ありがとうございます!! 共鳴君も合格したんですね❕』

ふと横に視線をずらすと、さっきのポニテの女子が俯いていた……。
そして……。小さくガッツポーズをとった。どうやら、あいつは合格したようだ。マジで紛らわしい。
『共鳴君、筆記テストは突破出来たことですし、次は……。いよいよ初見演奏ですね!』
『初見?』
『はい!』
『……。』


忘 れ て た

『あぁぁァァ初見! 初見演奏‼️ あるんだったわそれも‼️ やべぇ忘れとったわ‼️』
オレは短い人生でこれ以上ないくらいに……。
頭を抱え、膝を着いた。





【クライマックス編へ続く】