前回は●●島につたわる童唄(わらべうた)『いとまじ』のストーリーを軽く考察したところで終わりました。今回は唄の前に、島に伝わる珍しい儀式についてお話ししたいと思います。
 ●●島では毎年の小正月(こしょうがつ)(一月十五日)に、豊作を願ってとんど焼き(日本全国で行われる火祭りの行事)が行われるのですが、その儀式の前に演じられる神楽(かぐら)の一つに『月引(つきびく)三人衆(さんにんしゅう)』という演目があるといいます。物語は次の通り。

“むかしむかし、島にたいそう美しい女がいた。いつからか分からないが、山の(いおり)に住み、月のように白い肌をしていることから、お月さんと呼ばれた。あるとき、島の中で評判の良い三人の若い男衆(おとこしゅう)が、自分こそお月さんを(めと)るのに相応(ふさわ)しいと(あらそ)って、それなら本人に決めてもらおうと彼女の元を(おとず)れた。「誰かひとり、決めてください」と(せま)られたお月は「私は(かい)を受けた(出家した)身ですから」と返したが、「決めないなら力づくで」と三人が(おど)したので、つぎのように提案した。「いまから四人で、お酒の飲み合いをしましょう」お月は徳利(とっくり)を四つ用意して、それぞれの前に置いた。「このうち三つには酒が、残りの一つには水が入っています。ひとり一回ずつ、自分と誰かの徳利を交換して、一周したらお猪口(ちょこ)(そそ)いで飲む。これを繰り返して、最後まで酔わなかった人を選びましょう」男たちは喜んで飲み合いを始めるが、誰も水を口にすることはできず、三人そろって酔いつぶれてしまうのだった。不思議がる男衆にお月は言った。「お酒を飲むことも戒で禁じられています。だから私は水しか飲めなかったのです」男衆は感服(かんぷく)し、この話を島中に広めた。それから誰も、お月さんに手を出そうとはしなかった。”(引用元/『●●島神楽(かぐら)(ばなし)』●●郷土資料館蔵)

 お月さんと呼ばれる女性が、宗教上の理由から男たちの求婚を(こば)み、超常的な力に守られるというお話です。複数の男性から求婚され、難題(なんだい)を持ちかけるなんて、まるで『竹取物語』のかぐや姫みたいですね。このような昔話は《求婚(きゅうこん)難題譚(なんだいたん)》と呼ばれ、世界各地に伝承があります。
 ところが調べてみたところ、この『月引三人衆』について詳しく書かれた歴史書は他に存在しませんでした。有力な類似(るいじ)作品も他になく、●●島で独自に発生したものだと考えられます。
 ここで再度、『いとまじ』の歌詞を見てみましょう。



いとまじ いとまじ
おつきさまの いうことにゃ
御子(みこ)は白い子 (とうと)い子
隠るるところは 雲の中

いとまじ いとまじ
おつきさまの いうことにゃ
たとえ父母(ちちはは) 亡くしても
御子は(かん)せず いきようや

いとまじ いとまじ
おつきさまの いうことにゃ
御子の夜泣きは 一大事(いちだいじ) 
三人集めて あやしましょ



 この唄はおつきさまを(かた)()としています。そして三節では「三人集めてあやしましょ」となっています。『月引三人衆』とどこか、似ている気がしませんか?
 これらは共に、唯一(ゆいいつ)この島にだけ伝えられているものです。だとすれば、『いとまじ』と『月引三人衆』はどちらかが一方をルーツとしたか、あるいは同じモチーフがそれぞれ別の形に派生したと考えることができます。
 では、その共通のモチーフとは一体なんなのか? それはズバリ……と、書いてしまいたいのですが、まだ確証(かくしょう)が得られないので次回に続きます!
 ヒントとして、こちらの写真を載せておきます。賢明(けんめい)な読者の皆さまなら、ここから真相に辿(たど)()けるかも? 



                           文・写真=手塚(てづか)明日菜(あすな)