皆さんは、童唄(わらべうた)というものを知っていますか? 『げんこつ山のたぬきさん』や『はないちもんめ』など、幼稚園のお遊戯(ゆうぎ)やテレビの歌番組などで耳にしたことはあると思います。
 これらは伝承童謡(でんしょうどうよう)とも呼ばれ、古くから子供の遊びとして口伝(くでん)されるものですが、(かぞ)(うた)(とな)えごとなど、何かしらの意図が含まれている歌詞が多く、考察すると面白いものが多くあります。
 たとえば『京都の通り名数え唄』では、京都市内の(とお)り(道路の名前)を順になぞっており現在でも意味が通じたり、「あんたがたどこさ」の歌い出しで有名な『肥後(ひご)手毬唄(てまりうた)』は、肥後というから九州発祥(はっしょう)と思いきや、関東発祥だとする説(戊辰(ぼしん)戦争で出兵した熊本出身の兵士と、駐屯地(ちゅうとんち)の子供のやりとりが元とされます。たしかに九州の人同士なら「肥後どこさ」と聞くのは不自然に思えます)もあります。
 さて。本記事で取り上げるのは関西の小さな島に伝わる、奇妙な童唄です。まずはこちらをご覧下さい。



 これは●●郷土資料館(きょうどしりょうかん)に保管されている資料のレプリカを撮影したもので、書かれているのは『いとまじ』と題される童唄です。記録によれば●●島は、大化(たいか)改新(かいしん)(西暦645年)以前から人が暮らしていたそう。小さいながらも歴史ある島に伝わる童唄。歌詞を現代語に訳し、以下に書き起こしてみました。



いとまじ いとまじ
おつきさまの いうことにゃ
御子(みこ)は白い子 (とうと)い子
隠るるところは 雲の中

いとまじ いとまじ
おつきさまの いうことにゃ
たとえ父母(ちちはは) 亡くしても
御子は(かん)せず いきようや

いとまじ いとまじ
おつきさまの いうことにゃ
御子の夜泣きは 一大事(いちだいじ) 
三人集めて あやしましょ



 歌詞の構成を見てみましょう。歌い出しは「いとまじ」という謎の文句の繰り返し。意味は(さだ)かではありませんが「通りゃんせ」や「かごめかごめ」と似た印象を受けます。
 その後、おつきさまからストーリーが語られます。一節から三節の話をまとめてみると

①白い御子が雲に隠れた 
②御子の両親は死んでいる? 
③御子が夜泣きをしたら、三人であやす

 どうやら唄の主人公は「御子」と呼ばれる人物のようです。①の雲に隠れる、が雲隠(くもがく)れの意味なら、どこかの高貴な身分のお世継(よつ)ぎが、(わけ)あって逃げ()びた……などが妥当(だとう)でしょうか? そう考えれば②で両親が死んでいる話ともつながりますね。だとすれば、③の夜泣きを三人であやすとはどういう意味でしょう? 

 と、軽く考察してみたところで一旦(いったん)、筆を置いて次回に続きます。(そう、なんと今回の企画は初の連載です! やったー! )
 次号は三節の歌詞について、●●島に伝わる珍しい儀式と、歌詞の関連性を()まえながら考察を進めていく予定です。お楽しみに!

                           文・写真=手塚(てづか)明日菜(あすな)