W大学文学部史学科 三井歩ブログ『歴史家の散歩道』 Vol.34
非常勤講師・三井歩が新入生に歴史学の楽しさをレクチャー
「K島現地調査③ 本籍地調査」

四ツ谷:土地台帳から発覚した、四ツ谷家の先祖が暮らしていた住所はこの辺なんだけど。

三井:新しい民家はあるけど。四ツ谷さんの家かな? ちょっと直撃してみてくれないか。俺が行くと怪しいからさ。

四ツ谷:すみません。ごめんくださいーー。

三井:留守か。おい待て、この家、表札がないぞ。

四ツ谷:本当だ……。不思議な家だな。

三井:まぁいいや。気を取り直して、向かいのコンビニで話を聞いてみようか。

四ツ谷:お仕事中に失礼します。伺いたいのですが、このあたりで、四ツ谷さんという家をご存じないですか?

コンビニのおじさん:え、四ツ谷さん? ……知らないよ。

四ツ谷:ありがとうございます。

三井:素っ気ない店員さんだったな。こうなれば、自分たちで探すしかない。 

~30分ほど周囲を探索~

三井:四ツ谷姓の家は、一軒も見当たらないな……。

四ツ谷:おい、こっち! なんか廃墟がある! ひょっとしたら、これが四ツ谷家の家じゃないか?



三井:うわ!? これ……? たしかに、住所的にはまさしくこのあたりだけど。

四ツ谷:凄まじい荒れ具合だ。仮に四ツ谷家の家だとしたら、長いあいだ誰の手にも渡らずに放置されていたんだな。

三井:今にも崩れそうな廃墟だ。近づきすぎないように様子を見てこよう。庭は広いぞ。立派な杉の大木が生えてる。

四ツ谷:かなり古い建物だな。いつくらいに建てられたものだろう。

三井:荒れ放題だけど、もとは立派な屋敷だよ。下手したら幕末くらいに建てられた建物だと思うけどね。しかも、玄関には式台らしき痕跡がある。式台を作れる家は、経済的にはかなり豊かだ。

まあ、見栄っ張りなだけだった可能性もあるけどな。分不相応な高級賃貸に住んでる四ツ谷みたく。

四ツ谷:余計なお世話だ。ここから中が見える。すごいぞ。昔の家具まで残っている。

三井:あ、木箱がある。玄関から手が届くから開けてみよう。

四ツ谷:うわすごい。古文書だ。なんかシミが付いてるな。血の跡だったりして(笑)



三井:当時の生活の名残があることが凄まじいな。これじゃまるで、夜逃げじゃないか。

四ツ谷:突如島を出ないといけなくなった理由があるのかな。一応、近所の人に事情を聞いてみたい。ほら、あの島木さんって家の前の畑で農作業をしているおじいさんがいるから、直撃してくる。

四ツ谷:すみません。私は東京から来た四ツ谷と申します。ちょっと隣の家について、お話を伺いたいんですが。

※老人が農具を抱えて家に引き返したため、聞き取り調査不能。

三井:急用でもあったのかな。本籍地の調査はこんなもんかな。次は四ツ谷家の墓を探してみよう。