W大学文学部史学科 三井歩ブログ『歴史家の散歩道』 Vol.31
非常勤講師・三井歩が新入生に歴史学の楽しさをレクチャー
「『無家戸籍』に関する情報整理」

四ツ谷:Vol30.の記事で、俺の家の除籍の住所覧に「無家」という文字が見つかった。「無家」ってことは、家がなかったってこと? 俺の先祖、浮浪者だったの?

三井:いや、違う。
「無家」というのは、戸籍に登録された人々が、そこから他の町や村に寄留している状態のようだ。一般的に「無家戸籍」と言うみたい。俺もなれないワードだから、きちんと調べてみようか。

新見吉治氏の「無家戸籍考」には、ずばり「無家は全戸出寄留者の本籍である」と書いてある。

四ツ谷:他の地域に出ていたってことね。

三井:とにかく全戸を挙げてその土地にいなかったことは確かみたい。

四ツ谷:ちょっと待ってくれ。他の地域に住んでいるなら、どうして籍を移してないんだ?

三井:それも確かなことは分からない。でも、この記載がヒントだと思う。

「壬申戸籍の無家戸は、出寄留者の無家作の本籍にあたる。明治四年発布の戸籍法では全戸他戸籍管区へ移住するものは本籍を居住地に移すが原則であった。ただし情願によつて本籍をそのままにしておくものは、現住所に寄留という扱いにした。これが無家戸籍の由来である」

推測するに、四ツ谷の先祖は、K島を離れても、どうしても本籍地をK島に持ち続けたかったんじゃないか?? 何かやむを得なくK島を離れないといけない理由があったんじゃないか??
ともかく、この戸籍が作られた段階で、四ツ谷家の一族は誰ひとりK島にはいなかったことは確かだ。

四ツ谷:ちょっと驚きだな。 

三井:この時代、多くの人間は土地に縛られていた。代々同じ土地で暮らすのが当たり前。父祖の地を離れるなんて、当時の人間からしたら一大事なんだ。だからこそ、四ツ谷家がK島を離れるには、なにか大きな出来事が関わっていたと考えられる。

四ツ谷:大きな出来事か……。たとえばどんな?

三井:いまの段階では分からない。
君の先祖はどうしてK島に思い入れがあるのに、離れることになったんだーー?