「で、ですげーむ? ってなに?」

 優楽が怯えながら言った言葉が、白衣吸血鬼男は聞こえたようだった。

『此処にいるミナサンで殺シ合イ・ヲ・シテモライマース』

 悲鳴が上がり、ホール内がパニックになりそうになる。

「優笑ちゃん、なに、どういう事!?」

「わ、わからない……こ、殺し合いなんて……何言ってるの」

 さっきは国の宝だと言われ、今は真逆のような事を言われている。
 もしかしたら私達は悪い組織の人質にされている? 
 それとも悪い夢なのか、双子は必死に抱きしめ合う。
 
「ゆ、優笑ちゃん」

「だ、大丈夫、私が……守るから……」

 守れる根拠などないが、優笑は姉として妹を守らなければと思う。
 ずっと支え合い生きてきた。
 自分の命と同じくらい大事な片割れだ。

「殺し合いってどういう事だ!? オイこら! ふざけんじゃねーぞ!?」

 真莉愛が叫ぶ。

「きちんと説明をして頂かなければ、何一つ理解できません! あなた方は毒物事件を起こしたテロリストの一味ですか!?」

 真莉愛のあとに叫んだのは、こちらも有名人。
 生徒会長の当坂絹枝《とうさかきぬえ》だ。
 絹のような黒髪を今は一つにまとめ、メガネがよく似合う清楚な和風美人。
 その彼女が壇上でいつも生徒に呼びかけるように叫んだ。

『いいでしょう・きちんと説明をしますよぉ』

 吸血鬼の男は、当然の流れだというように机上で両手を握る。
 どこかで見た指揮官のようだ。

『まずは・自己紹介ですか・わたしは・どこにでもいるようなゲームマスターです』

 何も面白くはないのに、ゲームマスターは愉快そうに笑った。
 ザワザワとまた女生徒達が騒ぎ出す。

『そして、あなた達はこの国の未来を……そして世界を救ってくれる救世主になるのです』

「……全く意味がわからない」

 優楽が言うように、優笑にも意味がわからなかった。

『今・世界情勢は緊迫しています・貴女達が思うよりもっと・も~~っと深刻な状況です・いつ世界大戦が起こり攻められる状況になるかわからない非常~~~~~~~~~~~に危険な状況なのですーーーー!!』

 ゲームマスターの声が荒ぶり、ドン! と机に拳を叩きつける。

「そ、そんな事、私達に言われても……」

 怒鳴られた事もないような少女達は、怒声だけでも恐ろしさで青ざめる。
 男の怒鳴り声が苦手な優笑も、手が震えてだしたのがわかった。

 嫌な記憶が蘇らないように唇をグッと噛んで、目を閉じて『ストップ……ストップ……』と自分に言い聞かせる。
 
『もしも我が国が攻められたら……あぁ恐ろしい・みんな死んでしまうよね・嫌だよね?』

 今度は哀しげな声になる。
 情緒の不安定さが一層こちらの恐怖心をあおった。

『ですので~私達は戦車よりミサイルより核よりも・もっと安全で犠牲者も少なく・平和的な武器の研究を続けてきたのです』

「平和な武器……?」

 それが此の場にいる女子高生達となんの関係があるのだろうか。

『平和な武器計画……ヴァンパイア・プロジェクトS……吸血鬼を蘇らせる画期的な計画です』

「ヴァンパイア……って」

 ヴァンパイアの元になった公爵だかの話は知っているが、そんなモンスターなど想像上の産物だろう。
 女生徒達は誰もがそう思う。

『貴女達は300名のなかで・人間から吸血鬼へ変化する事に耐えた・それは麗しい選ばれた存在なのでス』

 優楽が優笑にしがみついて、優笑も抱きしめる。

「今、あの人……吸血鬼へ変化するって言った?」

「言った……」

 でも双子の身体は何も変わってない……そう思う。
 柔らかく温かい、いつもと同じ身体だ。 

『長い時間がかかりました……でもようやく人間を吸血鬼化するウイルスができあがりました! なのでぇ・それを花聖水に混入させたのですよ~~~~!』

 興奮するデスマスターの声が響く。

「あれは毒じゃなくて……ウイルスだったの……?」

『貴女達は進化に耐える事が出来た国の宝です』 

「「「吸血鬼……? 私達が……??」」」
 
 ザワザワと少女達に動揺が更に広がる。
 泣き声も聞こえ、金切り声を上げる女生徒もいた。

『はい~もう立派な吸血鬼です・現代に蘇った32人の吸血鬼達よ……』

 わけがわからない。
 300が死亡したあの大惨事はテロではなく、国の平和的なプロジェクトとでも言うのだろうか?
 理解できない……したくない。
 
「意味がわかんねぇよ! それで殺し合いってどういう事だ!!」

 また真莉愛が叫んだが、それは全員思った事だ。

『それがですね~貴女達は~まだくそ雑魚ちゃんなのです・ほとんどちからのない吸血鬼の赤ちゃんみたいな・幼虫ちゃんなのです』

「赤ちゃん……幼虫ちゃん……?」

 恐ろしい話に不似合いな言葉。
 抱きしめている優楽の身体は、やはり以前と何も変わらない……。
 私達が吸血鬼なんてそんなの嘘、としか思えない。

『蠱毒《こどく》という物を知っている人はいるかなぁ?』

「……呪術のですか?」

 生徒会長の絹枝の声に反応して、デスマスターが指をパチンと鳴らす。
 
『はぁい生徒会長さん・正解です・説明をどうぞ』

「壺に蛇やムカデなんかを入れて共食いさせ、最後に生き残った一匹が強い力をもつ呪術のことだと……」

『そうです! まさに大正解~~!!』

 共食い、最後の生き残り。
 もう嫌な予感しかしない……つまり。

『貴女達は吸血鬼同士で共食いあって、力を高め唯一の吸血鬼の姫、吸血姫! を目指してもらいまーす!! さぁみんなで殺し合いましょーーーーーーーーーーーーーー!!』
 
 少女達の悲鳴が響く。
 
 【生存者:32名】