巨大な噴水の死角から現れたのは、 すらりとしたスタイルの、美しい女性だった。
見た目は二十代の中ほどといったところだろうか。
華やかな雰囲気の、上品そうな笑みを浮かべている。
彼女の凛とした声が四人のもとに届いた。
「ようこそ、地獄へ」
「は?あんた誰?ここ何処なの?」
洋介が眉間にしわを刻んで高圧的に言った。
女性は意に介するふうもなく、笑みを深めて告げる。
「ですから、地獄です。皆さんの元いた楽園とは別世界になります」
「地獄?楽園?何の話だ?」
ゴーストタウンに人がいたことに安堵しつつも、女性の謎の発言に混乱に拍車がかかる結果となった。
「申し遅れました、私は志恩と申します。地獄の案内人をしています」
志恩は小さくお辞儀をして微笑んだ。
「さっきから地獄地獄って、何なんだよ一体・・・」
噛みつかんばかりの剣幕で洋介が苛立って叫ぶ。
「あら、わかりませんか?
ここは貴方がたが認識している死後の世界を指す地獄ではなく、楽園の罪人が堕とされる異世界なのです」
落ち着いたトーンで丁寧に志恩は四人に説明する。
「楽園とは、貴方たちが生まれ育った世界のこと。いわば現実ね」
「はあ?
ふざけんな、あんなクソみたいな世界が楽園なわけねえだろ。頭おかしいんじゃねえのか」
「受験はどうなるの?あたしたち受験生なのよ」
千夏の言葉に志恩は「愚かな」と呟き先を続ける。
「私の言っていることは、もうすぐわかると思います。地獄という意味も」
志恩はどこか挑戦的な笑み浮かべる。
「罪人って……あたしたちが何をしたって言うのよ。 早く家に帰してよ」
千夏が腰に手を当て、志恩を睨み据える。
志恩の唇から失笑するような息が漏れる。
「……楽園へ帰る?地獄から生還したなんて聞いたことある?」
志恩の小さな失笑は、次第に大きなそれへ変化していく。
「戻れるわけがないでしょう!地獄から!」
「そんな!」
震えていた美保が胸の前で両手を握りしめながら涙声で叫ぶ。
「貴方たち、悪人のわりに私の言うことをずいぶん素直に信じるのねえ」
「さっきから人のことを悪人だ罪人だと何を根拠にそんなことを……」
怒りを含ませた声で傑が静かに告げる。
すると志恩は意外とばかりに整った眉を吊り上げた。
「あら、心当たりないの?あんなことしておいて薄情ね。貴方たちを地獄に堕としてほしいと希望した人がいるのよ」
「誰がそんな……」
するとそんな傑の言葉を無視して、志恩は声高らかに言った。
「大磯傑とその恋人、秋田千夏。岸洋介とその恋人、金井美保、以上四名でよろしかったでしょうか?」
まるで客の注文を繰り返すウエイトレスよろしく、無機質な硬い声で言い放った志恩に呼応するように男の声が響いた。
「ああ、間違いない」
その声と同時に閉ざされていたもうひとつのエレベーターが音もなく開き、中から二人の少年が姿を現した。
ゆっくりと道路を渡ってやってきた二人を認めて、四人が顔色を変える。
傑がすぐさま二人を睨み付ける。
「川島、高橋……お前らが?」
「そうだよ、ボクが志恩さんを呼び出して、お前らの地獄堕としを頼んだんだ。お前らには、ボクが味わった以上の強烈な罰を受けてもらう」
川島善彦は、爬虫類のように舌なめずりし、ニヤニヤと笑い顔を張り付けている。
「たかがイジメじゃねえか。そんなことで……」
傑の発言を受けて、川島の顔色がさっと変わった。
歯をむき出して威嚇し、感情のまま叫ぶ。
「たかが、そんなこと、だと?ふざけるな!お前らのイジメのせいで、ボクは学校に行けなくなったんだ。お前らのせいでボクの人生は狂った。お前らの……全部お前らのせいなんだよ!」
「お前、覚えておけよ。あとでどんな目に遭うか、後悔しても遅いからな」
洋介が離れて立つ川島に向けて凄む。
意に介さず、川島はどこか夢見るように断言した。
「さて、後悔するのはどっちかな。泣いて許しを乞うても、もう遅いんだよ。
ボクはお前たちにやられっぱなしだった頃のボクじゃない。
この地獄でせいぜい苦しめ!復讐の始まりだ!」
見た目は二十代の中ほどといったところだろうか。
華やかな雰囲気の、上品そうな笑みを浮かべている。
彼女の凛とした声が四人のもとに届いた。
「ようこそ、地獄へ」
「は?あんた誰?ここ何処なの?」
洋介が眉間にしわを刻んで高圧的に言った。
女性は意に介するふうもなく、笑みを深めて告げる。
「ですから、地獄です。皆さんの元いた楽園とは別世界になります」
「地獄?楽園?何の話だ?」
ゴーストタウンに人がいたことに安堵しつつも、女性の謎の発言に混乱に拍車がかかる結果となった。
「申し遅れました、私は志恩と申します。地獄の案内人をしています」
志恩は小さくお辞儀をして微笑んだ。
「さっきから地獄地獄って、何なんだよ一体・・・」
噛みつかんばかりの剣幕で洋介が苛立って叫ぶ。
「あら、わかりませんか?
ここは貴方がたが認識している死後の世界を指す地獄ではなく、楽園の罪人が堕とされる異世界なのです」
落ち着いたトーンで丁寧に志恩は四人に説明する。
「楽園とは、貴方たちが生まれ育った世界のこと。いわば現実ね」
「はあ?
ふざけんな、あんなクソみたいな世界が楽園なわけねえだろ。頭おかしいんじゃねえのか」
「受験はどうなるの?あたしたち受験生なのよ」
千夏の言葉に志恩は「愚かな」と呟き先を続ける。
「私の言っていることは、もうすぐわかると思います。地獄という意味も」
志恩はどこか挑戦的な笑み浮かべる。
「罪人って……あたしたちが何をしたって言うのよ。 早く家に帰してよ」
千夏が腰に手を当て、志恩を睨み据える。
志恩の唇から失笑するような息が漏れる。
「……楽園へ帰る?地獄から生還したなんて聞いたことある?」
志恩の小さな失笑は、次第に大きなそれへ変化していく。
「戻れるわけがないでしょう!地獄から!」
「そんな!」
震えていた美保が胸の前で両手を握りしめながら涙声で叫ぶ。
「貴方たち、悪人のわりに私の言うことをずいぶん素直に信じるのねえ」
「さっきから人のことを悪人だ罪人だと何を根拠にそんなことを……」
怒りを含ませた声で傑が静かに告げる。
すると志恩は意外とばかりに整った眉を吊り上げた。
「あら、心当たりないの?あんなことしておいて薄情ね。貴方たちを地獄に堕としてほしいと希望した人がいるのよ」
「誰がそんな……」
するとそんな傑の言葉を無視して、志恩は声高らかに言った。
「大磯傑とその恋人、秋田千夏。岸洋介とその恋人、金井美保、以上四名でよろしかったでしょうか?」
まるで客の注文を繰り返すウエイトレスよろしく、無機質な硬い声で言い放った志恩に呼応するように男の声が響いた。
「ああ、間違いない」
その声と同時に閉ざされていたもうひとつのエレベーターが音もなく開き、中から二人の少年が姿を現した。
ゆっくりと道路を渡ってやってきた二人を認めて、四人が顔色を変える。
傑がすぐさま二人を睨み付ける。
「川島、高橋……お前らが?」
「そうだよ、ボクが志恩さんを呼び出して、お前らの地獄堕としを頼んだんだ。お前らには、ボクが味わった以上の強烈な罰を受けてもらう」
川島善彦は、爬虫類のように舌なめずりし、ニヤニヤと笑い顔を張り付けている。
「たかがイジメじゃねえか。そんなことで……」
傑の発言を受けて、川島の顔色がさっと変わった。
歯をむき出して威嚇し、感情のまま叫ぶ。
「たかが、そんなこと、だと?ふざけるな!お前らのイジメのせいで、ボクは学校に行けなくなったんだ。お前らのせいでボクの人生は狂った。お前らの……全部お前らのせいなんだよ!」
「お前、覚えておけよ。あとでどんな目に遭うか、後悔しても遅いからな」
洋介が離れて立つ川島に向けて凄む。
意に介さず、川島はどこか夢見るように断言した。
「さて、後悔するのはどっちかな。泣いて許しを乞うても、もう遅いんだよ。
ボクはお前たちにやられっぱなしだった頃のボクじゃない。
この地獄でせいぜい苦しめ!復讐の始まりだ!」