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 配信映像を切ってから、女は生き残った生徒の顔ぶれを眺めていた。

「あれ、センパーイ。終わったんすか?」

 そこへ、小生意気な声が飛び込んでくる。

「うん、終わったよー」

 女は一瞥して素っ気なく答えた。全く、今回もクズみたいなゲーム内容だったなと思う。ただそれでも、生き残った面々はそれなりに好感の持てる印象ではあった。

「へぇー、こいつらが今回のサバイバーっすか。あんなヌルゲーなのに意外と少ないんすね」
「なんだとコラー」
「だってそーじゃないっすか。全員生き残る方法があるとか、殺し合いしなくていいとか、デスゲームにしちゃヌルいっしょ」

 小馬鹿にした口調がいちいち気に障るが、後輩の言うことには一理あった。だから、女は教えてやる。

「そうだよー、だからこそ面白いの。明らかな希望が見えているのに、それぞれの自分勝手な思惑で足を引っ張り合い、結果犠牲が出る。醜いと思わない?」

 今回についてもそうだ。わざわざ偶数のクラスを選び、「告白を保留してはならない」という条件を取り払ったのに、終わってみれば3分の2程度しか生き残っていない。

「それにさー、こっちの方がフェアでしょ。一方的な絶望ゲーは好みじゃないんだよねー」
「ヒャハ、やっばヌルいっすね。センパイは」

 ケタケタと蝙蝠みたいな笑い声を後輩は響かせた。それ以上の問答は不要と判断して、女は視線を画面に戻す。

「あれ? つーか依頼者、死んだんすか?」

 画面を脱落者一覧にすると、後輩が驚いた声をあげた。

「そだよー。でも一部の目的は達成したみたい」
「へ? そうなんすか?」
「うん、ほら」

 頓狂な顔をした後輩に、女は依頼書を見せた。

「えー目的は……『恋愛の試し』と『親友へのお礼』と『復讐』か」
「そ。なんか、彼女の父親が不倫してたらしくて、弱味につけ込んで女に言い寄ってたぽいよ。んで、そこから恋愛不信に陥って、全部の恋が嘘くさく見えたって」
「へぇ。んじゃ残りは?」
「つけ込まれた女が親友ちゃんの母親。でも親友ちゃんは自分を恨まず、友達として大切にしてくれたから、元恋人と復縁させたかったって」
「ほーデスゲームに巻き込んで、ねえ」
「試したかった意味もあるのかもねー。人は窮地に立たされて初めて本性が出るらしいし。ちなみに、最後に書いてある『復讐』は未達成だね」

 女はそう呟くと、無造作に依頼書を机に放り投げた。

「それで? 『後半戦』の準備はできたー?」
「もち! スピーカークラックも掃除屋の手配もバッチリっす!」
「オーケー」

 女は短く呟くと依頼書を一瞥する。

「神崎麻耶。貴女からの依頼は完遂するから。安心してねー」

 楽しそうに目を細めると、女とその後輩は部屋の外に姿を消した。