ぼんやりと歩いていると、雪が降り積もった公園の中にある滑り台の上に何かが横たわっているのが見えた。
こんな大雪の中誰が公園にいるのだろうと、滑り台を覗き込んでみるとそこには真っ白の髪をした男が寝転がっていた。
その男は、一瞬人形かと疑うほどの容姿をしていた。昴に負けず劣らず、美しい顔立ちだった。ツヤツヤした白髪、真っ白な肌、整った顔立ち。両耳には黒っぽい細長いピアスがついていて、白い彼によく映えている。
目が離せない。昴がその感覚に陥ったのはこれが初めてだった。
その透き通った肌の上に一筋の涙が乾いている。その乾いた涙が残った頬に、そっと手を伸ばしてみると、指先からぞくぞくっと寒気が走った。もう死んでいるんじゃないのかと心配になるほど冷たい。
その冷たさで昴は我に帰る。見入っている場合じゃない、声をかけなければと急いで「おい! 聞こえるか?」と呼びかけた。
頬をぱしぱしと音が鳴るくらい強めに叩くと、男は眉間に皺を寄せて目を擦りながら起き上がって「……誰?」と煙たそうに言った。
取り敢えず、死んでいなかったことに安心した昴は質問を続ける。
「お前、どうした?」
「んー、捨てられちゃったんだよね……」
「はぁ?」
『捨てられた』なんて言葉が自分とは縁が無さすぎて昴はぽかんと口を開けた。意味がわからない、といった顔をする昴をじっと見詰めて男は「おにーさんが拾ってくれるの?」と小首を傾げ、悲しげな笑いを浮かべた。
「……取り敢えず、家来るか?」
その顔がどうしても悲痛で、このまま放っておくことは出来なかった。薄着でこんな大雪の中にいるのを見過ごせる訳が無い。
「ははっ、見ず知らずの人家に呼ぶなんてお人好しだな」
馬鹿にされても、昴は肯定も否定もできなかった。その憎まれ口を「お前、名前は?」と軽く受け流す。
「……ぎ」
「むぎ?」
「違う、なぎだっつってんの!」
麦、という字を頭に浮かべていたら割と強く否定されて少し驚いた。
そして、力尽きたように男はぼすっと昴の胸の中に顔をうずくめる。それからは何度問いかけても返事が返ってこなくなった。
「……えっ?」
一分、二分悩んだ末、昴はなぎを背負って自分の家に連れて帰ることを決めた。助ける、なんて言うのはお節介だと思いながらも、そのつもりでいた。一時的に保護してやろうと思った。それなら、大事にはならないだろう。
昴の背中にいるなぎは、昴よりちょっと低い身長なだけのはずなのに、まるで何も食べていないように軽かった。
心配になるほどに冷たくて軽かった。



