「自暴自棄を起こしたわりに、無様だな」
冷たい声で吐き捨て、浮いている川崎と鵺雲は対峙する。
「医師として働き、ここで亡くなった人間の魂を収集するだけならまだ情状酌量の余地があったが……。お前は完全に一線を超えた」
静かな怒りが滲んでいるのが伝わる。鵺雲の迫力に圧されたのか、川崎の顔にわずかに焦りが滲んでいく。しかしすぐに彼女は笑みを浮かべ目を伏せた。
「そう、かもしれないわ。でも私は本能に従った女性たちの魂を集めたまでよ。そろそろ潮時だとは思っていたけれど……あなたに出会ったから」
そこで川崎が絲を見つめた。怪しい笑みに絲の背筋が冷たいものが走る。
「だってとっても綺麗な瞳をしているもの。どうしても欲しくなっちゃった。術がきかないのは計算外だけれど、ますます興味が湧くわ」
「彼女は渡さない」
饒舌になる川崎に、鵺雲が言い切る。川崎はゆらりとこちらに近づいてきた。
「そうね。だから――」
彼女の長く伸びた両腕が、鵺雲を捕えようと迫ってくる。
「あなたで我慢してあげる。なかなか綺麗な顔をしているもの」
鵺雲は帯刀していた刀を抜き、川崎の腕を鮮やかに躱しながら、彼女との距離を縮めていった。それも計算のうちと言わんばかりに川崎はうしろへ下がっていく。
やがて川崎は柵の向こう側へと戻っていった。彼女を追いかけ、鵺雲は軽やかに柵を越える。それを待っていたかのように川崎が鵺雲と目を合わせた。
その光景に絲は叫びそうになる。先ほど自分もされたからわかる。鵺雲の状況に駆け出しそうになったが、泉下に止められた。
倒れ込みはしないが、鵺雲は俯いている。そんな彼に川崎が近づいた。
「ねぇ、一緒に落ちましょうよ」
彼女の手が鵺雲の首に伸ばされる……が、実際には届かない。次に聞こえたのは、鈍くなにかが裂けるような音だった。鵺雲の刀が川崎の体を貫いていた。刃先がわずかな月明かりに反射し、光る。
なにが起こったのか。一番信じられないといった面持ちをしているのは川崎自身だ。対する鵺雲は凍てつく眼差しで川崎を真っすぐに見据えている。
「ひとりで落ちろ」
そう言って彼女を押すように刀に力を入れる。刀から離れた川崎の体がゆっくりと落ちていく。すべてがスローモーションに映り、続けてなにかがぶつかったような不快な音が響いた。
呆然としている絲をよそに、泉下と犬伏がすぐに移動を開始する。おそらく下へ向かったのだろう。屋上に残された絲のそばに、鵺雲がやってくる。
冷たい声で吐き捨て、浮いている川崎と鵺雲は対峙する。
「医師として働き、ここで亡くなった人間の魂を収集するだけならまだ情状酌量の余地があったが……。お前は完全に一線を超えた」
静かな怒りが滲んでいるのが伝わる。鵺雲の迫力に圧されたのか、川崎の顔にわずかに焦りが滲んでいく。しかしすぐに彼女は笑みを浮かべ目を伏せた。
「そう、かもしれないわ。でも私は本能に従った女性たちの魂を集めたまでよ。そろそろ潮時だとは思っていたけれど……あなたに出会ったから」
そこで川崎が絲を見つめた。怪しい笑みに絲の背筋が冷たいものが走る。
「だってとっても綺麗な瞳をしているもの。どうしても欲しくなっちゃった。術がきかないのは計算外だけれど、ますます興味が湧くわ」
「彼女は渡さない」
饒舌になる川崎に、鵺雲が言い切る。川崎はゆらりとこちらに近づいてきた。
「そうね。だから――」
彼女の長く伸びた両腕が、鵺雲を捕えようと迫ってくる。
「あなたで我慢してあげる。なかなか綺麗な顔をしているもの」
鵺雲は帯刀していた刀を抜き、川崎の腕を鮮やかに躱しながら、彼女との距離を縮めていった。それも計算のうちと言わんばかりに川崎はうしろへ下がっていく。
やがて川崎は柵の向こう側へと戻っていった。彼女を追いかけ、鵺雲は軽やかに柵を越える。それを待っていたかのように川崎が鵺雲と目を合わせた。
その光景に絲は叫びそうになる。先ほど自分もされたからわかる。鵺雲の状況に駆け出しそうになったが、泉下に止められた。
倒れ込みはしないが、鵺雲は俯いている。そんな彼に川崎が近づいた。
「ねぇ、一緒に落ちましょうよ」
彼女の手が鵺雲の首に伸ばされる……が、実際には届かない。次に聞こえたのは、鈍くなにかが裂けるような音だった。鵺雲の刀が川崎の体を貫いていた。刃先がわずかな月明かりに反射し、光る。
なにが起こったのか。一番信じられないといった面持ちをしているのは川崎自身だ。対する鵺雲は凍てつく眼差しで川崎を真っすぐに見据えている。
「ひとりで落ちろ」
そう言って彼女を押すように刀に力を入れる。刀から離れた川崎の体がゆっくりと落ちていく。すべてがスローモーションに映り、続けてなにかがぶつかったような不快な音が響いた。
呆然としている絲をよそに、泉下と犬伏がすぐに移動を開始する。おそらく下へ向かったのだろう。屋上に残された絲のそばに、鵺雲がやってくる。



