第7章:新たな命と破壊の狭間
霧の中で、魔族の兵士たちは次々と消えていった。龍也の魔弾の力が、全てを浄化し、無に帰していく。しかし、その力を使うたびに、龍也の体にかかる負担も増していた。彼の内なる魔力が暴走しそうになる度に、心が引き裂かれるような痛みが走り、彼の体はその限界に達しつつあった。
「龍也…!」華の声が、焦燥を帯びて響いた。「無理しないで!その力を使いすぎると、あなた自身が消えてしまうかもしれない!」
「心配いらない。」龍也は冷徹な表情で答えた。「僕はこの力を使うことで、世界を変える。何があっても、止まらない。」
その言葉と共に、彼は再び力を解き放ち、魔族の残りの兵士たちを浄化していった。だが、彼の力が強力であればあるほど、代償も大きく、体力が急速に消耗していくのを感じた。彼の目の前で広がる樹海が、次第に揺らぎ、視界がぼやけていく。
「龍也!」華は龍也のもとに駆け寄り、彼の肩を支えた。彼の顔色はすでに青白く、血の気が引いていた。力を使い過ぎて、彼の命を削ってしまっているのだ。
「まだ…やらなければならないことが…」龍也の声はかすれていた。彼の目がかすみ、視界がぼんやりと歪んでいく。だが、その中でも彼の意識は、力を使い続けることに向けられていた。
華は深く息を吸い込み、決意を固めた。「こんなところで倒れるわけにはいかない。龍也、私はあなたの力になりたい。あなたがどんな選択をしても、私が支えるから。」
その言葉に、龍也は一瞬、微笑んだ。しかし、その微笑みはすぐに消え、痛みに歪んだ顔に戻った。「でも…」龍也は息を切らしながら言った。「僕はもう…終わりだ。」
その言葉に、華は胸が締め付けられる思いがした。彼女は必死に龍也を支えながら、自分の力を振り絞って彼を守ろうとした。しかし、その時、突然、樹海の奥から低く響く、うなり声が聞こえた。
「何だ?」華は顔を上げ、その方向に目を向けた。すると、樹海の中から、巨大な影が現れた。黒い煙のようなものを引き連れて、その姿が現れると、空気が一変した。巨大な魔族の王――それは、龍也が目覚める前に封印された、伝説の魔族の王であった。
その魔族の王は、龍也の目の前に立ちはだかり、その目をじっと見据えた。龍也の内に宿る魔族の力を感じ取り、まるで彼を試すかのように立ち向かってきた。
「龍也、お前が魔族の王であろうと、この私の力には敵わない。」魔族の王は低く響く声で言った。「その力を使い続ければ、お前の命は確実に尽きるだろう。しかし、私の力がそのすべてを受け継ぐのだ。」
龍也はその言葉に少し驚き、そして静かに答えた。「それがどうした?お前の力など、俺のものにはならない。」
彼の中で暴走する魔力が再び力を増していくのを感じ、龍也は再度、魔族の王に立ち向かう決意を固めた。だが、その力の暴走は彼の体を限界まで追い詰め、ついには体が動かなくなり、膝から崩れ落ちそうになった。
「龍也!」華は焦って彼の肩を支え、立たせようとした。しかし、彼の体は次第に重くなり、支える力も弱くなっていく。
「頼む…」龍也はかすれた声で言った。「今、僕に力を貸してくれ。」
その瞬間、華は突然、自分の中に眠っていた力を感じ取った。それは、龍也との絆から生まれた力――彼女がかつて封印していた力だ。華は目を閉じ、深く息を吸い込んだ。そして、彼女はその力を解放した。
「龍也、私はあなたと一緒に戦う。」華の声は強く、確固たる決意が感じられた。「どんな代償があろうとも、あなたと共に生きる。それが私の決断だ。」
華の手のひらから、強烈な光が放たれ、その光が龍也の体を包み込んだ。龍也はその光に包まれることで、再び力を取り戻し、体が軽く感じられた。彼の中に流れる魔力が暴走しそうになりながらも、華の力によってそれは制御され、彼は立ち上がった。
「華…」龍也はその手を握り返し、目を見開いた。「お前…」
「私たちの力を合わせれば、どんな敵でも倒せる。」華は微笑んだ。「だから、もう迷わないで。あなたが選んだ道を、私は信じている。」
その言葉に、龍也は深く頷いた。そして、二人は再び魔族の王に立ち向かう準備を整えた。魔族の王は、その姿をじっと見つめていたが、今度は少し驚いたような表情を浮かべた。
「ふふ、面白い。」魔族の王は冷たく笑った。「お前たちがどこまで力を振り絞っても、この力を超えることはできない。」
しかし、龍也はその言葉に動じることなく、自らの力を引き出した。そして、その魔力を最大限に解放し、華との力を一つにして、魔族の王に立ち向かった。
「終わりだ!」龍也は叫び、魔族の王に向かって全力で攻撃を放った。その攻撃は、まるで大地を揺るがすような勢いで魔族の王に直撃した。
魔族の王はその攻撃を受けても、わずかによろめいただけで耐え抜いた。しかし、龍也の目にはもう恐れはなかった。華の力を借り、彼の魔族の王としての力が、ついに解き放たれたのだ。
「これで…終わりだ!」龍也はもう一度、魔族の王に向かって力を込めた。魔族の王はその力を受けることなく、ついに消滅した。
そして、静けさが戻った。樹海の中に、二人の足音が響く。龍也はその場に立ち尽くし、息を整えた。彼の力は確かに強大だったが、彼はその力がもたらす代償を深く理解していた。
「終わったのか?」華が尋ねると、龍也は静かに答えた。「まだだ。」
龍也は再び樹海の奥へと歩き出した。世界を変えるための戦いは、まだ終わったわけではない。だが、彼は今、確信していた。自分の力を、そして華との絆を信じて、次の一歩を踏み出す決意を固めたのだ。