第6章:魔族の王の目覚め
龍也の力が完全に覚醒し、樹海に広がる光が一瞬にして空間を支配した。まるで大地が震えるかのような感覚が彼の体を貫き、心の奥底に眠っていた力が目を覚ました。これまで感じたことのない熱と冷たさが交錯し、彼の体の中を巡る。その力を受け入れることで、彼は少しずつ魔族の王としての自覚を持ち始めていた。
華はその光景を見守っていた。彼女の目には、龍也が放つ光がどこか恐ろしいものとして映っていたが、同時に強く、美しいものとしても映った。それは魔族の王が目覚める瞬間であり、世界を変える力が解放された瞬間だった。
「龍也…大丈夫?」華は、少しだけ恐れを隠しながら尋ねた。彼女の声に震えはなかったが、心の奥には大きな不安が広がっていた。
「大丈夫だ。」龍也は静かに答えた。だがその声には、これまでの彼のものとはまったく異なる冷静さと力強さがあった。「今、俺はすべてを受け入れた。自分の力も、運命も、そしてその代償も。」
華はその言葉を胸に刻み込みながらも、龍也の変化を感じ取った。彼の目に宿る光は、もはや人間のものではなかった。それは、彼の体内に封印されていた魔族の王が目覚めた証だった。だがその力が、果たして世界にとってどのような影響を与えるのかはまだわからない。
「力を使えば、必ず何かを失う。」華は低い声で呟いた。「君の力が暴走しないように、私は君を支えるつもりだけど、それでも不安だ。」
「分かっている。」龍也は深く息を吸い込んだ。彼の瞳には、もはや恐れが感じられない。むしろ、その瞳の中には決意が宿っていた。「でも、俺はもう恐れない。今こそ、その力を世界のために使う時だ。」
その言葉と共に、龍也は自分の体内に流れる魔力を解き放った。彼の周りに渦巻く黒い霧が再び現れ、空気が一瞬で重くなる。霧は龍也の体を包み込み、まるでそれが彼の一部であるかのように、次第に形を成していった。
「それが、魔族の王の力か…」華はその光景を見つめながら、心の中でつぶやいた。それは恐ろしくもあり、どこか美しくもあった。だがその美しさは、果たして人間の手に負えるものなのだろうか?
「龍也、君は本当にその力を使っていいのか?」華は再び尋ねた。彼女の目には、まだ不安と疑念が入り混じっていた。
「使うんだ。」龍也は力強く答えた。「この力を使って、世界を変える。俺の力が、悪しきものを根絶し、浄化する力になるはずだ。」
その言葉を聞いた華は、一瞬、心の中で迷いを感じたが、すぐにその迷いを振り払った。龍也が選んだ道ならば、彼女は共にその道を歩むしかない。彼女は静かに頷き、龍也のそばに立った。
「ならば、私は君のために戦う。」華は強く言った。「君の力が暴走しないように、私も全力でサポートする。」
その瞬間、樹海の奥から一際強い魔力が感じられた。龍也の力が解き放たれたことで、魔族の王の力が他の魔族たちにも伝わったのだろう。それは、まるで雷鳴のように響き渡り、周囲の自然までも震わせた。
「来る。」龍也はすぐに察した。魔族の使者たちが、彼の覚醒を感じ取って動き出したのだ。彼の力が世界を変える力になることを期待する者もいれば、その力を恐れる者もいるだろう。
「準備をしろ、華。」龍也は短く言った。
華は頷き、矢を取り出して弓に装填した。彼女もまた、龍也の決断を支えるために戦う覚悟を決めていた。二人の周囲には、黒い霧が渦巻いていた。その霧の中から、次第に形を成すものが現れた。それは、まるで龍也が目覚めたことに反応するかのように、魔族の使者たちだった。
「龍也、君がその力を使う決断をしたのなら、もう後戻りはできない。」使者の声が霧の中から響いてきた。「君が覚醒したことで、この世界は崩壊への道を歩み始めた。しかし、それが正しい道であるならば、私たちはその選択を尊重する。」
「それが正しい道かどうかは、これから証明する。」龍也は冷静に答えた。「でも、世界を変えるためには、僕の力を使うしかない。」
使者はしばらく沈黙した後、再び口を開いた。「ならば、その力を見せてもらおう。」
その言葉と同時に、霧の中から現れたのは、巨大な魔族の兵たちだった。彼らは龍也に向かって一斉に迫ってくる。彼の中に宿る魔族の王の力が、今まさにその戦いの火蓋を切る瞬間だった。
「華、頼む。」龍也は一度、華に目を向けて言った。華は静かに頷き、矢を放った。矢は瞬く間に魔族の兵士に命中し、弾けるような音を立ててその体を貫いた。だが、その魔族の兵士はすぐに再生し、まるで傷が癒えるかのように立ち上がった。
「くっ…」華はその様子を見て、歯を食いしばった。「再生能力が高すぎる…これでは一撃で倒すことができない。」
「それが魔族の力だ。」龍也は冷静に答えた。「でも、僕の力なら、こいつらを一掃できる。」
龍也は自らの力を解き放ち、手のひらを前に差し出した。すると、彼の周囲の霧がさらに濃くなり、その霧が一気に魔族の兵士たちを包み込んだ。霧の中で、兵士たちの姿がぼんやりと浮かび上がる。だがその霧の中では、何も動けなくなる。
「これで終わりだ。」龍也は呟き、指を鳴らした。その瞬間、霧の中から魔弾が発射され、魔族の兵士たちは次々と消えていった。彼の力が魔族を浄化し、存在を無に帰していく。
「すごい…」華はその光景に圧倒されながらも、感心の声を漏らした。「龍也、君の力は…本当に恐ろしい。」
「でも、この力は使うべきなんだ。」龍也は冷静に言った。「僕がその力を使って、世界を変えるためには、他の選択肢がない。」
戦いは続く。魔族の軍勢は次々と現れるが、龍也の力によって、そのすべてが消えていく。彼の魔弾は、ただの力ではない。それは浄化の力であり、滅びの力でもあった。彼はその力を使うことで、魔族を一掃していくが、その力が及ぶ先にあるものは、果たして本当に「浄化」なのか、それとも「滅び」なのか。
「龍也…君が選んだ道、本当にそれ