第5章:決断の時
龍也は立ち尽くしていた。樹海の中、すべてが静まり返り、ただ彼の心臓の鼓動だけが激しく響いていた。目の前にいる使者が告げた言葉、そしてその後に続く静寂。それらの重さが、今の自分に圧し掛かってきた。

「君がその力を使うことで、世界は新たに生まれ変わるだろう。しかし、それは君にとっても大きな犠牲を伴うことになる。」使者の言葉は耳から離れなかった。

龍也はゆっくりと目を閉じ、深く息を吸った。自分が選ばなければならないのは、この力をどう使うかという決断だ。しかし、その力を使うことで世界がどう変わるのか、彼にはまったく想像がつかなかった。それが、終焉なのか、それとも再生なのか。どちらにしても、彼はその力を使うことで自分自身の運命を大きく変えることになる。

「君の力が世界を浄化し、再生させる。」使者の言葉が頭の中で反響する。もしその言葉が真実だとすれば、彼は世界を新たに作り直すことができるのか?だが、その先に待つものが何であれ、今の自分にはそれを受け入れる覚悟が必要だ。

「龍也。」華の声が、彼を現実に引き戻した。華は彼の肩に手を置き、静かに言った。「もし君がその力を使う決断をしたら、私も君と共に戦う。その覚悟を持っている。」

彼女の言葉が、龍也の胸に温かいものをもたらした。華の決意が、彼に力を与えた。しかし、その覚悟がどれだけ強くても、最終的に選ぶのは自分自身だ。彼が選ぶ道、それが世界をどう変えるのか、それを決めるのは他の誰でもない、自分の手の中にある。

「でも、もしその力を使わなければ、君は普通の人間として生きられるんだ。」華の声が続いた。「普通の人間として、幸せな人生を送ることもできる。」

「それが本当にできるのか?」龍也は彼女を見つめ返した。「普通の人間として生きる道を選んだとして、あの力が完全に消えるわけじゃない。それに、今もその力が僕の中にある限り、いつか再び覚醒してしまうんじゃないか?」

華はその言葉に答えなかった。彼女は静かに立ち上がり、樹海の中に目を向けた。その目には、決して消えることのない信念が宿っていた。

「君が選ばなければならないのは、その力をどう使うかだけじゃない。」華は静かに言った。「君が選ばなければならないのは、その力を使って何を守り、何を捨てるかということだ。」

龍也はその言葉を反芻した。彼がその力を使うことで、守れるものもあれば、失うものもある。彼はその力がもたらす結果を恐れていた。しかし、恐れているだけでは何も変わらない。世界を変えるためには、自分自身の意思を持ち、その意思に基づいて行動しなければならない。

「君の力で世界を変えることができる。」使者の声が再び響く。「でも、その力には代償が伴う。君がその力を使い続けることで、君自身がその代償を払うことになる。」

代償――その言葉が、龍也の心に重くのしかかった。自分の力が世界を浄化し、再生させるとしても、その代償を払うことになる。もしその代償が、彼の命を奪うことだとしたら?それでも彼はその力を使うべきなのか?

「君がその力を使うことで、世界を浄化できる。」使者の声は冷たく響いた。「しかし、その力を使うことが君を消耗させ、最終的には君を滅ぼすことになる。」

「それが、君の選択肢だ。」使者の目が光を放った。「君がその力を使うことで、世界を変えられるか、それともその力を封じて普通の人間として生きるか。それを決めるのは、君自身だ。」

龍也はその言葉に深く考え込んだ。彼がその力を使えば、世界は新たに生まれ変わることができる。しかし、その力を使い続ければ、最終的には自分が消耗し、滅びることになる。それが彼の運命だとしたら、それを受け入れるべきなのか?それとも、その力を封じ込めて、普通の人間として生きるべきなのか?

「君が選ぶべき道は…どっちだろう。」龍也は心の中で問いかけた。

その時、彼はふと気づいた。自分が本当に恐れているのは、その力が暴走して世界を滅ぼすことではない。恐れているのは、自分がその力を使わなかったことで、世界が変わらず、何もできなかったことだ。自分の力を使って、何かを変えたい。そう思うのは、人間として当然のことだ。

「華、僕がその力を使う決断をしたら、君も一緒に戦ってくれるか?」龍也は静かに尋ねた。

華はその問いに、しばらく答えを待つように黙っていた。だが、やがて彼女はゆっくりと頷いた。

「もちろん、君と共に戦う。」華の声は揺るがなかった。「君がどんな道を選んでも、私は君を信じている。そして、君がその力を使うことで世界を変えられると信じている。」

龍也はその言葉を胸に刻み込んだ。彼が選ぶ道、それが世界をどう変えるか、それはわからない。しかし、今、自分がその力を使うことで、何かを変えることができるのだと信じた。そして、その力を使うことが、自分の選ぶべき道であることを確信した。

「決めた。」龍也は静かに言った。「僕はその力を使う。そして、世界を変える。」

その瞬間、彼の中で何かが覚醒した。体内で暴走していた力が、今度は完全に制御された。彼の手のひらから光が溢れ、その光が樹海を照らし出した。

「さあ、行こう。」龍也は華を見つめ、力強く言った。「僕たちの戦いは、今から始まる。」

華はその言葉に微笑み、共に歩き出す準備をした。彼らの前に広がる樹海の中で、彼らが選んだ未来が待っている。世界を変えるための戦いが、今、始まろうとしていた。