第4章:王の選択
龍也は無言で立ち尽くしていた。華の言葉が、頭の中で何度も反響していた。彼の体内に封印された魔族の王、その存在を彼は信じたくなかった。しかし、華の目は揺るがぬ真実を伝えていた。あの黒い霧、それが彼の中に眠っていた力と呼応し、目覚めたのだ。
「君の力が解放されると、魔族の王が目覚め、この世界を支配する。」華の言葉は、龍也の心を抉るように響いていた。彼が持つ力、それは決して小さなものではない。だがその力を使うことで、世界を滅ぼすかもしれないのだ。
「君の体の中には、魔族の王が封印されている。君がその力を引き出すと、王の意識も目覚める。」華は息を呑みながら、静かに続けた。「でも、力を制御できれば…きっとそれを封じることもできる。」
「封じる…」龍也はその言葉を繰り返した。今の自分にはその方法が分からない。しかし、彼の中で何かが感じ取られ始めていた。彼は、自分が目覚めた力を使うことで、何かが変わることを感じていた。それが、魔族の王を目覚めさせることになるのか、それとも何か別のものになるのか、彼にはまだ分からなかった。
「龍也、もし君がその力を使う決断をしたなら、私は君を支える。」華はそう言った。彼女の目は決して揺らぐことなく、龍也を見つめていた。その目には、信じる力が宿っていた。
「でも、もし君がその力を封じる方法を見つけることができたとしても、その先に待つのは、君が持つ力と共に生きる運命だ。」華の言葉が、再び龍也の心を揺さぶった。魔族の王が封じられているその力を使うことで、龍也は永遠にその力を抱えながら生きていかなければならないのだ。
「君には選択肢がある。世界を救うためにその力を使うか、それともその力を封じて、普通の人間として生きるか。」華は静かに言った。「でも、君の力が完全に覚醒すると、その選択肢はもうなくなるかもしれない。」
龍也は深い息を吐き、目を閉じた。華の言葉が全て正しいように思えた。彼は自分の力をコントロールすることができれば、魔族の王を封じる方法を見つけることができるだろう。しかし、もし力を制御できなければ、その力はすぐに暴走し、周りのすべてを飲み込んでしまうだろう。
「華、君は…本当にその力を使って戦うつもりなのか?」龍也は質問を投げかけた。
「私が言った通り、君を支えるつもりよ。」華はそう言って微笑んだ。その微笑みは、龍也にとって一筋の希望の光となった。しかしその光は、彼が目覚めた力の重さを知ることで、次第に消えかけていくのを感じていた。
「僕は…僕はどうしたらいいんだろう。」龍也は自分の心に問いかけた。選択を迫られたその時、彼は何も答えることができなかった。彼の心は揺れ動き、迷いの中にあった。
その時、樹海の奥からまた黒い霧が現れた。今回は、前回とは異なる存在が現れたようだった。それは、魔族の王の使者だった。使者は、華の弓を見て、その目を鋭く光らせた。
「お前たちが、力を覚醒させたのか。」使者は低い声で言った。その声には不安定な響きがあった。使者は、龍也を見つめ、その目を鋭く光らせた。「君の力を使うつもりか?」
「力を使うつもりだ。」龍也は毅然とした声で答えた。彼はもう、迷っている暇はなかった。選択は早急に下さなければならない。しかし、使者の目に映った龍也の力を見て、何かを感じ取ったのか、使者の表情が一瞬、困惑に変わった。
「その力は、もう一度、封印することはできない。」使者は言った。その声には確信が含まれていた。
「封印できない…?」龍也はその言葉を反芻した。「それなら、僕はどうすればいいんだ?」
使者は何も答えず、代わりに大きな黒い霧を放った。霧は一瞬にして二人を包み込み、視界が遮られた。龍也はその霧を引き裂こうと力を込めたが、その瞬間、彼の体内から溢れ出す光が、霧に触れると、霧を消し去った。
「君の力が…まさか、こんなにも強いとは。」使者は驚いた様子で呟いた。「それが魔族の王の力だというのか?」
「魔族の王…」龍也はその言葉をかみしめた。彼の体の中で覚醒した力が、まさに魔族の王のものだと確信した。
「君がその力を使うことで、この世界はどうなってしまうのか…」使者の声はかすれていた。「だが、君がその力を使えば、すべてを終わらせることができるだろう。」
「終わらせる?」龍也は疑問を抱きながら、使者を見つめた。「それはどういう意味だ?」
使者はしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。「君の力が覚醒したということは、この世界の終焉が近づいているということだ。魔族の王が覚醒すれば、すべてが崩壊する。しかし、もしその力を使えば、全てを終わらせることができる。君の力が世界を浄化し、再生させる。」
その言葉に、龍也は一瞬混乱した。世界を終わらせる?それとも浄化する?その言葉の意味が彼にはわからなかった。
「君がその力を使うことで、世界は新たに生まれ変わるだろう。しかし、それは君にとっても大きな犠牲を伴うことになる。」使者は最後にそう言った。
龍也は黙って立ち尽くし、次第にその言葉の重さを感じ取った。自分が力を使うことで、この世界がどう変わるのか。それはまだ分からなかった。しかし、もう一つ確かなことがあった。それは、彼がその力を使うことを決めれば、どんな未来が待っていても、それを受け入れる覚悟を決めなければならないということだった。
「僕が選ぶべき道は…どっちだろう?」龍也は心の中で、自分に問いかけ続けた。