第3章:失われた記憶
翌朝、樹海の静寂が二人を包み込んでいた。夜の闇から抜け出し、朝日が新たな光をもたらすと、龍也と華はゆっくりと起き上がった。龍也は自分の手を見つめ、その中にあった光がまだ微かに残っているのを感じていた。昨夜、魔族を退けた力。それが彼の中にどこから湧き上がったものなのか、いまだに謎だった。

「龍也、何か思い出した?」華が静かに問いかける。彼女の目には、彼がどこか遠くを見つめるような不安そうな表情が映っていた。

「いや、わからない…」龍也はゆっくり首を振った。「でも、あの力は何か…僕が知っているものじゃない気がする。」

華はそれを聞きながらも、他のことに気を取られていた。樹海の奥から微かな音が聞こえてくる。それは、風が葉を揺らす音ではなく、もっと不吉な響きが含まれていた。

「魔族がまた近づいてきているのかもしれない。」華は慎重に言った。「気をつけた方がいい。」

龍也はその言葉に頷き、周囲を見渡した。樹海の中では、何かが動いているような気配が漂っていた。異常な静けさの中、突然、地面が震えた。

「来る!」龍也は声を上げて、華を引き寄せた。すると、木々の間から黒い影が迫ってきた。それは、魔族の兵士たちではなく、もっと恐ろしい存在だった。黒い霧のようなものが地面を這い、まるで生き物のように動いている。

「魔族の…使者だ。」華は青ざめた表情で言った。「あれは、魔族の使者、何かを取り戻すために送り込まれた。」

龍也は立ち上がり、華を守るべく、再びあの力を引き出そうと試みた。しかし、手をかざすと、その力は予想以上に強く、制御が効かなくなった。光が暴走し、周囲の木々がその光を吸い込んでいく。恐ろしい勢いで樹海の中にあるものが全て消え去っていく。

「駄目だ、止まらない!」龍也は叫びながらも、力を抑える方法がわからなかった。

その瞬間、華が駆け寄り、彼の腕を掴んだ。「龍也、力を放つんじゃない!あれが君を飲み込んでしまう!」

龍也は必死に力を抑え込もうとしたが、もう手遅れだった。魔族の使者がその黒い霧を広げ、二人に向かって突進してきた。黒い霧は、まるで龍也の力を吸い取るかのように迫ってきた。

「覚えてるのか?」華の声が、龍也の耳に届いた。「君は、これを使わなければならなかった。君は力を制御するために、もっと大きな秘密を知っている。」

その言葉が、龍也の頭の中で反響する。どこか遠くで、忘れていた記憶が呼び覚まされるような気がした。彼は閉じた目を開け、深呼吸をした。

「…そうだ、僕には制御する方法があったはずだ。」

突然、心の中で何かが弾けた。龍也はその瞬間、力の源を感じ取ることができた。彼の中に流れる光が、魔族の使者の黒い霧と対抗するように力強く燃え上がった。黒い霧は、龍也の力を吸い取ることができず、逆に消えていく。

「今だ!」華が叫んだ。

龍也は全力でその力を放ち、黒い霧を一掃した。使者はその力を避けきれず、消え去った。樹海は再び静けさを取り戻した。

「終わった…」龍也は息をついたが、胸の中にはまだ解けない疑問が残っていた。「でも、何が起こったんだ?あれは一体?」

華は彼を見つめ、しばらく無言で立ち尽くしていた。「君の中には、魔族の王が封じられている…」彼女の声は震えていた。

「魔族の王?」龍也は驚いた。自分の中にそんな存在が封印されているなんて、信じられなかった。

「その力、あなたの中には魔族の王が封印されている。君が目覚めることで、王の力が解放される。」華はその後、深く息を吐き、続けた。「でも、王の力が解放されることには、恐ろしい代償が伴う。」

龍也はその言葉に衝撃を受けた。自分が今まで知っていた世界が、全く違ったものに感じられた。

「君は、その力をどう使うか、選ばなければならない。」華は続けた。「さもなくば、魔族の王が完全に目覚め、この世界を支配してしまう。」

「僕が選ばなければならない…」龍也は呟いた。胸に重くのしかかる使命感が、次第に彼を押しつぶしていくようだった。