好きな人がいるのはいいな。なら伴侶に生活の面倒見てもらえばいいのではないか。
 そんなことを思ったそうだ。
 そんな簡単にいくか、と反論すると美佳は障害者専門の婚活サイトをスマホで表示した。
「これ、試してみたいの」
 概要を読み、掛かってくる費用を見る。うん、一端の結婚相談所の金額だ。高い。高いが高校と大学の学費と諸経費に比べれば端金だった。
「上手くいくか分からないのよ。躁状態のお姉ちゃんと会って、うつ状態で拒絶されるかもしれない。そういう覚悟出来てる?」
「やってみなくちゃ何も進まないのよ。上手くいかなかったら、そのときはそのときよ」
 言動の傾向が躁だ。寛解している時はもう少し冷静なのだが。
 だが、やらせてみるのもいいかもしれない。でないと本当に巽が美佳を扶養しかねない。そうなったら美桜の立場がないではないか。
 上手くいかなかった時は勉強代だと思おう。
 姉妹協同で貯めている貯金から資金を捻出することにした。
「わかったわ。今度一緒に入会に行きましょう」
「ありがとう!」
 こうして姉の婚活が始まった。
 時間の許す限り介助者として付き添う。最近はとみに落ち着いてはいるが、過去にはパニック発作を起こして過呼吸で倒れ救急搬送されたこともあった。デートにひとりで行かせて倒れられるより付き添いの方がずっと楽だった。
 婚活サイトには自身が障害者であるか、障害者に理解のある健常者が登録されている。
 その日やってきたのは視覚に障害のある弱視の男性だった。待ち合わせをして移動する際、非常に混み合った交差点を渡ることになる。危ないと思ったので誘導を買って出た。美佳はかちこちに緊張してそれどころではなかったというのもある。
 美佳が障害を負ってから可能な範囲で障害者を助けることは当たり前になっていた。この行為があんなことになるなんて全く予想していなかった。
 デートは穏やかに進んだ。互いの身の上話をしているうちに美佳の緊張もほぐれてきて、次に男性の誘導が必要になった時には姉が誘導する側になっている。
 カジュアルめのレストランで昼食を食べ、その日は解散となった。
「お姉ちゃん、どう?」
「いい人だと思ったけど他にも仮交際してみたいわ」
 デートから帰宅するときに今日の感想を話す。
 せっかく婚活サービスを使っているのだからそれもいいだろう。
「それより、今日は白狼さんとデートなんでしょ。家でおとなしくしているから楽しんでらっしゃい。朝帰りでもいいのよ」
「体調は問題ないのね?」
「軽めの躁ってくらいよ。それも薬でだいぶ良くなってるわ」
 今日も付き添いしたが、大体のところ姉はひとりでやれていた。今日は予定通りデートに行っていいだろう。
 一旦自宅マンションまで戻り、化粧を整えて巽の家へと向かう。
「いってらっしゃい」
「いってきます」
 まともなデートに胸を躍らせながら、足を走らせた。