翌日、病院と薬局がひどく混雑していて、薬局を出たのは十八時になろうかという頃だった。
夕食は外で食べて行くことにし、駅前に出て店を物色する。
あまり高くないけれど美味しそうなところ、と思い姉と歩いていると声を掛けられた。
「美桜先輩!」
聞き覚えのある声に振り向くと彼氏の白狼巽が立っている。
「白狼くん! あれ、こっちの方だっけ?」
「先方との打ち合わせ直帰するところだったんです」
そういえば今のクライアントがこの駅最寄りだった気がする。
「偶然ですね。そちらの方は?」
巽は美桜の隣を見て言った。
「姉の美佳よ。お姉ちゃん、こちらはわたしの一個下の仕事の後輩で……彼氏、の白狼巽くん」
彼氏のことろで恥ずかしさに少し言いよどむ。
美佳は心底驚いたという顔で固まった。
「美桜ちゃん、彼氏がいたの?」
「うん、そう」
一切この話をしていなかったのでそりゃ驚くだろう。
「はじめまして、美佳さん。美桜先輩とお付き合いしています、白狼巽と言います」
巽は懐から名刺を取り出し差し出す。美佳はバリバリの営業だった頃の所作で丁寧に受け取る。
「どうもご丁寧に。坂本美佳です」
そんな遣り取りを終えると、巽が疑問を口にした。
「今日はどうされたんですか。夕方離席になってましたけど」
ここはどう話そう。病気は美佳のものだ。付き添いしているとはいえ、勝手に話すのは憚られる。
「私の病院に付き添ってもらったの」
悩んでいる間に美佳が話し始めた。
「どこかお悪いので?」
「ええ。あの、もしお時間あるならお話聞いてくださらないかしら。本気で美桜とお付き合いしているのであれば、聞いておいた方がいいわ」
虚を突かれた様子の巽は、美桜を伺った。
確かに、隠しておけるものではない。この病気は寛解すれども完治せず。今が話す時なのだろう。
頷いて返すと、巽は笑顔を浮かべる。
「ご一緒させてください」
こうして三人は適当な居酒屋に入ることにしたのだった。