※本作では双極性感情障害やそれに纏わる差別的な表現を含んでいます。ハッピーエンドではありますが、障害の話などを目にすると気分を害される方はブラウザバック願います。


「障害者は……その家族は恋愛すら許されないのでしょうか」
 それでもわたしはこの人と一緒になりたい。そう願う。


「お姉ちゃん! どうして口座が空っぽなの!?」
 日課である姉の銀行口座の預金額確認をして、(さか)(もと)()()は絶望した。
「昨日、生活費入金したよね」
「美桜ちゃん、ごめんなさい。ちょっと躁っぽくて」
 躁転したなんて聞いていない。これは散財して初めて症状に気付いたパターンか。
 美桜の姉、()()は双極性感情障害である。いわゆる躁うつ病だ。
 両親は美桜が高校生の時に亡くなり、社会人になりたての美佳が必死に働いて学校を出させてくれた。しかし、それがまずかった。ブラック企業で身を粉にして働いた美佳は、美桜の大学卒業を見届けるかのように精神病を発病した。
 当初はうつ病と診断された。しかし良くなったかと思えば調子を崩しを繰り返して、診断が双極性感情障害に変わった。それから、自立支援、障害者手帳、障害年金の申請に奔走し、もろもろのことに一区切りつくのに一年が掛かった。美佳はもちろん仕事を辞め、しばらく無理のない範囲で主婦をしてもらった。障害厚生年金はそこそこ額がある。美桜は在宅が可能なWeb制作会社に入社して何とかふたり支え合って生きてきた。今、美佳はテレワークの障害者雇用で時短で働いている。ふたりの収入でなんとかかんとか。
 今回は躁の代表的な症状である金銭管理が出来ない側面が出てしまったらしい。たまに出勤するとこれだ。
「ごめんなさい。やっぱり私駄目人間ね」
「落ち込まないの。とにかく明日病院に行きましょう。混合状態かも。薬調整してもらって、カウンセリングの枠は空いてるかしら」
「電話してみるわ」
 こんなことを二年ほど続けてきた。姉は七年尽くしてくれた。美桜もせめてそのくらいは支えなくては、と思う。だが、今ちょっと困っていた。
 会社の後輩とお付き合いを始め、時間を何とかやりくりしたいのである。
白狼(しろかみ)くんといつデート出来るんだろう)
 明日は念のため病院に着いていった方がいいだろう。障害等級が二級ということはそういうことだ。
「美桜、明日カウンセリングも取れたわ。十五時から」
「わかった。十四時まで仕事して、行きましょ」
 とにかく、今回の躁がどこまで跳ねるか不明である。しばらくは忙しいだろうな、と思った。