デビュー曲は年が明けてから発売された。俺らのユニットがデビューする情報が解禁されてからはテレビ、SNS、雑誌……メディアに今まで撮りためていたものを一気に世間に放出し、ぐいぐい宣伝していった。そのお陰もあり、話題にもなったし、デビュー曲のランキングは2位を突き放し、堂々の1位となった。

 ふたりで〝おめでとう会〟と称して、ミニパーティーを開いた。いつもと違う雰囲気にしようと思い、外食を提案したのにいつものように「僕が作ります」と、白桃大知は料理を作ってくれた。だけどいつもよりも品数が多く、今日だけカロリーを気にしないで揚げ物も沢山作ってくれたから、いつもとは違う雰囲気になった。

 料理を運び終えた白桃大知は、ダイニングテーブルの俺の向かい側に座る。

「それではあらためまして、デビュー曲『恋煩いと願い』が無事に発売されたのと、ランキングの1位、おめでとう!」

 俺がそう言うと、赤ワインが入ったグラスで乾杯した。白桃大知はお酒が弱いからグラスに入ってるのは、ふたくちぐらいの量。少しだけなのに、それを飲んだだけで白桃大知の顔は、ほんのり赤みが帯びてくる。

 全部綺麗に食べ終わって「ごちそうさまでした。こんなに食べたの久しぶりだわ。美味しかった、ありがとう」とお礼を言うと、白桃大知は微笑んで『喜んでくれて良かった』と、心の中で呟いていた。

 食べ終えた後は、ソファでふたり並んで最終回の録画を再び観た。

 ドラマの中での白桃大知が演じた晶哉はBL内の役割でいうと、攻めだ。パッと見るとおっとり系の晶哉よりも生意気なタイプの瑠依の方が攻めに見えるが、晶哉が覚醒?すると本領発揮し、晶哉の攻めが表面に現れてくる。

「なぁ、このドラマでは晶哉が攻めで俺が受けだけど、リアルな俺たちはどうなんだろうな……」
「攻めと受け? なんですかそれは」
「知らないの?」

 そっか、俺はドラマが決まってからすぐに原作もチェックしてBLについても調べまくったけど……。白桃大知は特に何も調べてないのか。

「なんていえばいんだろう。BLで恋愛関係になったふたりの、積極的になるタイプの方が攻めで、攻めはぐいぐい攻めて、受けはそれに応える感じ?」

「あの、それって遥斗くんは僕との関係をそういう風に意識してくれてるってことですか?」

 白桃大知の言葉を聞いた瞬間、心臓ごと、時間が止まった気がした。

 なんでこんな質問をしてしまったのだろう。

「いや、それは……」

 上手く答えれない。

「僕は、ずっと意識していますけどね」

 こっちを見つめる瞳がとろんとしていている。あのワインの量だけで酔ったのか?

 突然白桃大知は俺に覆いかぶさってきて、ふたりはソファの上で倒れた。

「おい、やめろ」

 白桃大知は離れない。
 やめろと言ったけれど、嫌ではなかった。

 大切なものを扱うように、優しく抱きしめてくる。

 白桃大知の体温が丁寧に伝わってくる。
 それが心地よかった。

「僕、ずっと遥斗くんが大好きです。愛しています」

 どう返事をするのが正解なんだと考えていたら、全身の力が一気に抜けてきた。
 じっとしていると、寝息が聞こえてきた。

 顔が見えないけれど、寝た?
 しばらく離れないでそのままでいた。

 そして白桃大知のぬくもりを感じ、寝息を聞きながら、自分の気持ちをあらためて確認する。
 俺も白桃大知のことが、好きだと――。


「わっ、ごめんなさい!」

 まだ薄暗い時間、小さな声で呟いて白桃大知は俺から離れた。白桃大知の温かい体温を感じていると気持ちよくなってきて、自分もいつの間にか眠っていた。

「いや、大丈夫だから、気にしないで」
「でも、遥斗くんは僕より小さくて細いから、潰れ……」
「いや、小さいっても身長175あるし、それに鍛えてるから潰れないし」

「そ、そうですよね。本当にごめんなさいでした」
「いや、それよりも、昨日の夜は、何も覚えていなくて……」

 でも白桃大知の心の声は『急に抱きしめてしまい、告白までしてしまった。覚えていないふりをしてしまえば……』と。

「……覚えてるじゃん」
「えっ?」

「実は俺、人の心が読めるんだ」

 無言のままこっちを見つめ、目が全開になった白桃大知。
 いつかは打ち明けたいと考えていたけど。でも多分、今打ち明けるべきではなかったかも。でも俺にとってはすごく大事な出来事だったのに、逃げるように嘘をついてきたからつい……。
 
「やっぱりそんな特殊能力があったんだ……」
「……いや、疑わないの?」
「だって、遥斗くんは僕の特別だし。特別な人だから」
『やっぱり、遥斗くんは特別だ』

 心の中でも疑わずに信じる白桃大知。
 実は幼いころにも両親に打ち明けていた。

 だけど「そうなんだ、すごいね」なんていいながら心の中は『本当に人の心なんて読めたら、人生がどんなにラクか。読めるなんて、ありえない』なんて、否定的だった。今も心の中では否定されるだろうなんて思っていたのに。

 今、否定していた当時の両親の心の中に返事をするならば「人の心が読めてもラクじゃない。むしろ知らない方が平和でいられたことも知ってしまって、しんどい」と伝えるだろう。

「本当に信じるのか?」
「はい、信じます。遥斗くんの言葉は全て信じます」

 誰にも言えない秘密をふと打ち明けて、それを肯定してくれた。

 勝手に涙が溢れてくる。

「俺、もう白桃がいないと生きていけないかも。俺も、白桃が好きだ」

 正直な気持ちを伝えると、何故か白桃大知もつられて泣き出した。
 そしてぎゅっと俺を抱きしめてきた。

 そして白桃大知は、優しくキスをしてきた。

***