家を出ていくゆかりの背中を見送ってトモナリは朝食を食べ始めた。
まずはウィンナーから一口。
少し焦げ目がつくぐらいに焼かれたウィンナーはパリッと音を立てて弾けるように割れた。
なんてことはないどこにでもあるような既製品のウィンナーであるが安定した美味しさがある。
続いて目玉焼き。
トモナリの好みに合わせて黄身が半熟に焼かれている。
箸で黄身の真ん中に穴を開けて醤油を垂らし入れて食べるのがいつものやり方だった。
黄身が垂れそうになってすするようにして目玉焼きを口に運ぶ。
口の端についた黄身をはしたなく舌で舐めとり、次はウィンナーを醤油が混ざった黄身につけて食べる。
なんてことはない日常が胸に熱いものを込みあがらせる。
感情を押し込むように朝ごはんを一気に食べてトモナリも家を出た。
「まさか住宅街に感動する日が来るとはな……」
なんてことはない景色にまた胸が熱くなる。
どこにでもありそうな住宅街、雲一つない青空、急ぐこともなく歩く人々。
こんなものを見て感動する人など今はいない。
だがトモナリにとっては時として焦がれるほどに求めた世界であった。
「……いけね!」
学校の時間が迫っていた。
トモナリは慌てて走り出す。
「ハァッ……ハァッ……この体……」
少し走っただけなのにすぐに息が切れる。
記憶の中で成長していた自分の体ならもっと走れたのにと息を整えながら早歩きで学校に向かう。
最初は学校どこだっけなんて思っていたけれど歩いていると意外と体が覚えているもので迷うことなくたどり着けた。
「チッ……少しは鍛えとけよ……」
自分の体で鍛えてこなかったのも自分なのにトモナリは思わず舌打ちしてしまった。
三年二組がトモナリのクラス。
「おっ、来やがったぜ」
「どんなリアクションするかな?」
ああ、そうかとトモナリは思い出した。
この時期の記憶が薄い。
それはなぜだったろうかと考えていたがようやく理由が分かった。
机にいたずら書きがされている。
バカにするものや直接的に死ねなんてことも書かれている。
誰がやったのかは分かりきっていて、教室の隅で集まってクスクスと笑っているクソみたいな男子たちだ。
トモナリが何かするのを期待して見ているけれどトモナリは一度小さくため息をつくとそのまま席に着いた。
「くだらねぇ……」
イジメを受けていた。
だから日々が嫌で、灰色に塗りつぶされたようで、覚えていないのだ。
けれど今のトモナリは世界が滅びるほどの経験をしてきた。
イジメなど隣の人が咳をした程度の取るに足らないことにしか感じない。
どうして昔の自分はこの程度で参ってしまっていたのか疑問に思ってしまうぐらいである。
「なんだよアイツ……無視かよ?」
「つまんね」
何のリアクションもしないトモナリに男子生徒はつまらそうな顔をしている。
他のクラスメイトは何も言わない。
次に自分がターゲットになったら嫌だからだ。
そして先生が入ってくる。
教卓の位置からでも机の状態は見えるはずなのに何も言わない。
「愛染さん」
朝の連絡事項などの確認を終えて先生がトモナリに声をかけてきた。
「机のいたずら書き、消しなさい」
けれども先生の目的は机の状態を見てイジメを心配するなんてことじゃない。
ただ単に机をきれいにしろと言いに来たのである。
事なかれ主義のクソ教師というのが今のトモナリが抱く先生への印象だった。
どう見たって自分でやったわけじゃないのにそこについては何も触れずにただ机のいたずら書きを消せというのは自分のためである。
机をそのままにしておくと他の先生にバレるから消せというのだ。
「イヤです」
「はっ?」
「俺はこのままでも構いません」
事なかれ主義で生徒間の問題に手を出したくないのならそうすればいい。
ただしトモナリもただでやられてやるつもりは毛頭ない。
担任の先生に訴えかけても無駄なことは分かっている。
けれど他の先生はどうだろうか。
イジメを隠蔽しようとするのならやっても構わないがトモナリが進んで加担することはしない。
「机は学校の備品です! きれいにしなければいけないでしょう!」
反抗的なトモナリにカッとなった先生が声を荒らげる。
知るかボケナス、という言葉を飲み込んでトモナリはニコリと笑ってやる。
「では帰りまでにきれいにしておきます」
「なっ……」
あくまでも今動いてやるつもりはない。
椅子にふんぞり返ってトモナリは挑発的な目で先生を見る。
「あなた……!」
その時予鈴のチャイムが鳴り響いた。
「次の授業、始まりますよ」
イヤでも時間は流れる。
先生が威圧的に睨みつける間にも次の授業までの時は迫っていた。
「消しゴム……どうして筆記用具も出していないの!」
トモナリは動かない。
ならば自分で消そうとした先生だったがトモナリは筆箱すら出していなかった。
「誰か消しゴムを貸しなさい!」
もうすぐ授業を受け持つ先生が来る。
担任は早く消さねばと慌てたように周りを見るが、巻き込まれたくない生徒たちはトモナリの席から離れて遠巻きに様子を眺めていた。
「騒がしいですね……何をしているのですか!」
先生がトモナリの前の席の子の消しゴムを掴んで机のいたずら書きを消そうとした。
ちょうどそのタイミングで次の授業の先生が入ってきた。
まずはウィンナーから一口。
少し焦げ目がつくぐらいに焼かれたウィンナーはパリッと音を立てて弾けるように割れた。
なんてことはないどこにでもあるような既製品のウィンナーであるが安定した美味しさがある。
続いて目玉焼き。
トモナリの好みに合わせて黄身が半熟に焼かれている。
箸で黄身の真ん中に穴を開けて醤油を垂らし入れて食べるのがいつものやり方だった。
黄身が垂れそうになってすするようにして目玉焼きを口に運ぶ。
口の端についた黄身をはしたなく舌で舐めとり、次はウィンナーを醤油が混ざった黄身につけて食べる。
なんてことはない日常が胸に熱いものを込みあがらせる。
感情を押し込むように朝ごはんを一気に食べてトモナリも家を出た。
「まさか住宅街に感動する日が来るとはな……」
なんてことはない景色にまた胸が熱くなる。
どこにでもありそうな住宅街、雲一つない青空、急ぐこともなく歩く人々。
こんなものを見て感動する人など今はいない。
だがトモナリにとっては時として焦がれるほどに求めた世界であった。
「……いけね!」
学校の時間が迫っていた。
トモナリは慌てて走り出す。
「ハァッ……ハァッ……この体……」
少し走っただけなのにすぐに息が切れる。
記憶の中で成長していた自分の体ならもっと走れたのにと息を整えながら早歩きで学校に向かう。
最初は学校どこだっけなんて思っていたけれど歩いていると意外と体が覚えているもので迷うことなくたどり着けた。
「チッ……少しは鍛えとけよ……」
自分の体で鍛えてこなかったのも自分なのにトモナリは思わず舌打ちしてしまった。
三年二組がトモナリのクラス。
「おっ、来やがったぜ」
「どんなリアクションするかな?」
ああ、そうかとトモナリは思い出した。
この時期の記憶が薄い。
それはなぜだったろうかと考えていたがようやく理由が分かった。
机にいたずら書きがされている。
バカにするものや直接的に死ねなんてことも書かれている。
誰がやったのかは分かりきっていて、教室の隅で集まってクスクスと笑っているクソみたいな男子たちだ。
トモナリが何かするのを期待して見ているけれどトモナリは一度小さくため息をつくとそのまま席に着いた。
「くだらねぇ……」
イジメを受けていた。
だから日々が嫌で、灰色に塗りつぶされたようで、覚えていないのだ。
けれど今のトモナリは世界が滅びるほどの経験をしてきた。
イジメなど隣の人が咳をした程度の取るに足らないことにしか感じない。
どうして昔の自分はこの程度で参ってしまっていたのか疑問に思ってしまうぐらいである。
「なんだよアイツ……無視かよ?」
「つまんね」
何のリアクションもしないトモナリに男子生徒はつまらそうな顔をしている。
他のクラスメイトは何も言わない。
次に自分がターゲットになったら嫌だからだ。
そして先生が入ってくる。
教卓の位置からでも机の状態は見えるはずなのに何も言わない。
「愛染さん」
朝の連絡事項などの確認を終えて先生がトモナリに声をかけてきた。
「机のいたずら書き、消しなさい」
けれども先生の目的は机の状態を見てイジメを心配するなんてことじゃない。
ただ単に机をきれいにしろと言いに来たのである。
事なかれ主義のクソ教師というのが今のトモナリが抱く先生への印象だった。
どう見たって自分でやったわけじゃないのにそこについては何も触れずにただ机のいたずら書きを消せというのは自分のためである。
机をそのままにしておくと他の先生にバレるから消せというのだ。
「イヤです」
「はっ?」
「俺はこのままでも構いません」
事なかれ主義で生徒間の問題に手を出したくないのならそうすればいい。
ただしトモナリもただでやられてやるつもりは毛頭ない。
担任の先生に訴えかけても無駄なことは分かっている。
けれど他の先生はどうだろうか。
イジメを隠蔽しようとするのならやっても構わないがトモナリが進んで加担することはしない。
「机は学校の備品です! きれいにしなければいけないでしょう!」
反抗的なトモナリにカッとなった先生が声を荒らげる。
知るかボケナス、という言葉を飲み込んでトモナリはニコリと笑ってやる。
「では帰りまでにきれいにしておきます」
「なっ……」
あくまでも今動いてやるつもりはない。
椅子にふんぞり返ってトモナリは挑発的な目で先生を見る。
「あなた……!」
その時予鈴のチャイムが鳴り響いた。
「次の授業、始まりますよ」
イヤでも時間は流れる。
先生が威圧的に睨みつける間にも次の授業までの時は迫っていた。
「消しゴム……どうして筆記用具も出していないの!」
トモナリは動かない。
ならば自分で消そうとした先生だったがトモナリは筆箱すら出していなかった。
「誰か消しゴムを貸しなさい!」
もうすぐ授業を受け持つ先生が来る。
担任は早く消さねばと慌てたように周りを見るが、巻き込まれたくない生徒たちはトモナリの席から離れて遠巻きに様子を眺めていた。
「騒がしいですね……何をしているのですか!」
先生がトモナリの前の席の子の消しゴムを掴んで机のいたずら書きを消そうとした。
ちょうどそのタイミングで次の授業の先生が入ってきた。