「ど、どうしますか!?」

 階段下からもスケルトンが上がってきている。
 このままでは囲まれてしまう。

 しかし上の階に逃げたところで追い込まれることに変わりはない。

「……ヒカリ!」

「僕も戦えるぞ!」

「ふええっ!? また別のモンスター!?」

 リュックの中に隠れていたヒカリが出てきて女の子は驚きに後ずさる。
 
「飛び降りるぞ」

「え……えええっ!?」

 こうなったら逃げ道は窓しかない。
 近くに先ほどヒカリが入ってきて開けっぱなしになっていた窓がある。

 ここは二階である。
 少し危険はあるけれど飛び降りることもできないわけではない。

「……出来るな?」

「やってみる!」

 トモナリはヒカリに作戦を伝えた。
 安全性を少し高めるぐらいの作戦だがないよりマシだろう。

「飛び降りろ!」

「ええ……そんな……」

「モンスターに殺されるよりマシだろ!」

 窓から飛び降りろという言葉に女の子はためらいを見せる。
 気持ちは分からなくもない。

 たとえ二階といっても下を見れば結構な高さがある。
 ヤンチャなガキならともかく普通の人は二階から飛び降りるということは簡単な行為ではない。

 しかし今は悩んでいる時間も惜しい。
 ゆっくりと迫り来るスケルトンは数を増やしていてジリジリとトモナリたちは追い詰められている。

「うっ……と、飛び降りる……」

 女の子は窓から下を見て飛び降りることをためらっている。

「早くしろ!」

 トモナリは近づいてきたスケルトンを木刀で倒す。
 あまりスケルトンも倒したくないのにと内心苦々しい思いでいっぱいだった。

「チッ……ヒカリ!」

「むふー! やっちゃうよ!」

「へっ……キャアアアア!」

 これ以上待っていられない。
 痺れを切らしたトモナリはヒカリを女の子に差し向けた。

 ヒカリは女の子の服を掴むとそのままグイッと引っ張って窓の外に引きずり出した。

「ふぬー!!!!」

 目を閉じて衝撃に備えた女の子だったけれど思いの外地面につかない。
 そっと目を開けるとゆっくりと地面が迫ってきている。

「ふぃ〜」

 トモナリがヒカリに伝えた作戦はヒカリが服を引っ張って落下速度を緩やかにできないかというものだった。
 少しでも速度が落ちて安全に着地できるならと思っていたけれどヒカリの力はトモナリの想像よりも強くて、安全に女の子を下ろすことができた。

「早く逃げろ!」

 そのまま地面に下ろされて呆然とする女の子にそれだけ言うとヒカリはまたトモナリのところに戻っていく。

「しまっ……!」

 トモナリが横に降った木刀はスケルトンの頭を破壊することができずにそこで止まった。
 高い物理力があればスケルトンを破壊して倒すことができる。

 しかしスケルトンは腐ってもモンスターでまだまだひ弱なトモナリで倒すことは簡単でなかった。
 そこでトモナリはスケルトンの弱点を突くことにしていた。

 スケルトンはアンデッド系モンスターであり、神聖力という力に弱い。
 これはスキルによって与えられる神様の神聖な力で、スケルトンのみならずアンデッド系モンスターのほとんどに対して強い力を発揮する。

 けれど神聖力の用意など現段階のトモナリにはできない。
 だがスケルトンにはまた別の弱点があった。

 それは塩なのである。
 スケルトンを含めた一部の弱いアンデッド系モンスターは塩に弱いという特徴を持っていた。

 トモナリは事前に塩を用意して水に大量に塩を溶かし込んでいた。
 校舎の入り口や教室で撒いたもの、あるいは木刀に振りかけていたのもこの濃い塩水であった。

 塩をふりかけてもスケルトンは倒せないけれど塩の効果を持ったもので攻撃するとスケルトンの防御力が大きく下がるのである。
 しかし何度も木刀を振るっているうちに水が飛んでいって塩の効果が薄くなっていてしまった。

 倒せなかったスケルトンはそのままトモナリに手を伸ばした。

「あぶなーい!」

 窓から飛び込んできたヒカリがスケルトンの頭に飛びかかった。
 スケルトンが勢いに負けて倒れて、密集していた他のスケルトンもドミノ倒しに倒れていく。

「ナイス、ヒカリ!」

「あいつは無事だ!」

「じゃあ飛び降りても大丈夫そうだな!」

 骸骨に囲まれても嬉しくない。
 トモナリはスケルトンに背を向けると窓に向かって走り出した。

「ヒカリ、いくぞ!」

「おうとも!」

 トモナリは窓枠に足をかけて飛び出す。
 倒れなかったスケルトンが手を伸ばして追いかけてきたけれどトモナリの背中には届かない。

「キャッチ!」

 ピークを過ぎて落ち始めたトモナリのリュックをヒカリが掴む。
 そして黒い翼を思い切り羽ばたかせる。

「ふぬぅーーーー!」

 流石に女の子よりも重たい。
 でも普通に落下するより遥かに緩やかな速度でトモナリは落ちていって上手く着地することができた。

「……あいつは逃げたようだな」

 もう女の子はいなかった。
 いたらいたで何してんだと思うがいないといないで礼ぐらいあってもなんて思う。

「まあいい、行こうか」

 先ほど通報したのでもうすぐ人も来るだろう。
 校舎の中にいたなんてバレると何と言われるか分からないのでさっさと学校の敷地内から出る。

「効果はあったな」

 見ると学校の入り口でスケルトンたちがうろうろしている。
 濃い塩水を越えられないのだ。

 教室の方はおそらくゲートから次々とスケルトンが溢れてくるので押し出されたのだろうが、入口の方はまだもう少し持ちそうだった。

「……到着したようだな」

 警察のサイレンが聞こえてくる。
 あとは大人たちに任せればいいとトモナリとヒカリはそのまま道場に向かったのだった。