近くのコンビニで晩ごはんを買って帰宅した。
自炊は休みの日くらいしかする気にならないので、近くのコンビニに助けられている。
パチ、と部屋の灯りを付けると、私はすぐにみるみるさんを飾った。
「可愛い!!」
これでもう一週間くらい何も食べずに生きていけるのではないか。
そう思える可愛さだった。

私は久しぶりに、仕事を終えてからDETOXに行った。
一週間ぶり、二度目の来店。しばらくみるみるさんパワーで生きられた私だったが、さすがにもう疲れてきた。
「いらっしゃいませ…あ、小桜さん」
「こんばんは。お久しぶりです、深雪くん」
深雪くんは、私を見て少し驚いたようだった。前付けていたものとは違うピアスが光る。
「…名前、覚えてくれてるって思ってなかった」
「覚えてるよ。前話したとき、楽しかったから」
私は、会社にいる時のような無理やり貼り付けた笑顔ではなく、心から笑った。
普通だったら一週間置きにカフェなんて来ない、本当のことだ。
「噓でも嬉しいです」
深雪くんは、そう言いながら優しく微笑んだ。なんだかその姿は、すぐに散ってしまう花のようで儚かった。
少し声が震えていたのは、気のせいだと思う。
私はメニューを見る。すると、可愛らしい字が書かれた付箋が貼ってあった。
『一日五食限定 試作品のアプリコットタルトを無料でご試食いただけます!』
アプリコットタルト…。美味しそうだ。まだ残っていればいいのだが、と思いつつも、私は深雪くんに、
「デトックスウォーターと…あと、アプリコットタルトの試食ってまだ残ってますか?」
と訊ねた。
「残ってますよ。今持ってきます」
深雪くんは、すぐにデトックスウォーターとアプリコットタルトを持ってきてくれた。
アプリコットタルトは、艶が美しく目立っていて、芸術作品のようだった。
「実は、今日のは失敗作なんですよ。思ったよりも砂糖が足らなかったみたいで、後からあんまり甘くないかなって思って、上からめっちゃゼリーかけて冷やしたから、アプリコットまで到達するまでに飽きるかも」
私は、アプリコットをスプーンですくって、周りを覆うゼリーと一緒に口へ運んだ。
「…失敗作じゃないよ!美味しい、ゼリーもこれくらいなら全然飽きないよ!」
アプリコット自体が甘いからそこまで心配いらないのに、と思いながら、私はどんどん食べ進めた。
「…アプリコットの中心にホイップクリーム入ってるんだ、すごい」
私はこれが無料なのはおかしいと思う。お金を支払わせてほしい。
「あー、それも失敗なんです。本当はカスタードクリームの予定だったのに…」
深雪くんは、悔しそうにそう言った。確かに、タルト生地にはカスタードの方が合う気もするけれど、関係なく美味しい。
「深雪くんは、これをお客さんの目線で食べた?」
「食べてないです。なんでですか?」
私は、そんな深雪くんに、こう言ってあげた。
「失敗作でも、こんなに美味しいものは美味しいって思っちゃうよ。お客さん、多分みんなそう思うよ」
こんなに美味しかったら、失敗作でも全然いいと思う。のびしろはちゃんとあるから。
深雪くんが、前髪をさら、といじる。
「…そんなたくさん、嬉しいこと言わないでよ」
ぼそっと聞こえた深雪くんの言葉は、上手く聞き取れなかった。
ただ、今日は色々深雪くんと話したい。話してみたい。
今夜は長くなりそうだ。