「小桜、それはさ…」
「それは…?」
私は、ゴクリと唾を飲み込んだ。
「それは、萌えるね」
…もえる?
「話聞いてる限りだとさ?その人はめっちゃかっこいいんでしょ?で、優しいけどちょっとダウナーな感じがあるって、もうギャップじゃん?マッシュで前髪長いとかわかってるねー本当、相当これまでモテて来たんだろうなー!」
「柚葉ちゃん、それで結局、十八歳ってそんな感じだったっけ…?」
あ、そういう話だったね、と、語り始めた柚葉ちゃんは一旦その話をストップさせて、しっかり私の質問に答えた。
「その子、たぶん小さい時から大人だらけのとこで生活してたんだよ。…夜纏(やまと)もそう。小っちゃい時からずっと大人だらけのとこで生きてきたから、不敵な笑み?っていうのが多いもん。今どっか行ってるけど」
夜纏、は柚葉ちゃんの旦那さんのことだ。確かに、深雪くんと雰囲気が似ているかもしれない。
「とにかく、大人との関わり方が上手いんだと思う。お店の雰囲気的にそんな危険ってわけじゃないと思うけど、でもそういう奴はなんとなく嫌な感じがする。そんな信頼しすぎないで」
「うん。…物心つく前から、大人ばっかりの所にいたのかもしれないね」
ミステリアスな雰囲気を持っている、なんて一言では表せないようなものが、深雪くんにはあると思う。
でも、だからといって、あの人は危険じゃない。
お店に来るお客さんも、みんな穏やかに、自由に過ごしていて、あたたかかった。
マスターも、時々私と深雪くんを見て微笑ましそうにしていた。
だからきっと、危険ではないと思う。
仕事に戻った後も、深雪くんに対して、それ以外の考えは浮かばなかった。

会社を出て、今日は駅へと直行した。
さすがに毎日行く時間はなく、デトックスウォーターをまた飲みたい気持ちもあったが、今日はやめることにした。
駅に入る前に、一度ショッピングモールへ立ち寄った。
私には、みるみるさんのアクキーガチャをしなければならない義務がある。
しばらく歩いて探し回ったところ、ガチャガチャコーナーの端に、可愛いフォントで『みるみるさんのアクリルキーホルダー』と書いてあるものを見つけた。
全六種類、かぶってもいいけど三回まわすならかぶらず半分ゲットしたいところ…!
「頼む、瓶入りみるみるさん来い…!」
一回目、ホイップみるみるさん。みるみるさんがホイップクリームになって絞られそうになっている。可愛すぎる。
二回目、瓶入りみるみるさん。き、来た…!!もうこれ以上のことは望みません。
三回目、ホイップみるみるさん。惜しくもかぶる。ちょっと残念だけど、観賞用と付ける用で分けられるからオーケー。
みるみるさんが三つも乗った私の手は、今とてつもなく幸福だ。
ほわほわとした気持ちで、みるみるさんを大切にカバンにしまい、電車に乗った。