ブルースターのパフェが完成して、少し経ったある日。
拗ねた顔で私たちを見つめる乃糸ちゃんに、私と深雪くんは困惑していた。
「…あんたたちには、本当に振り回されてばっかり。どげんしてくれると?」
小桜さん、深雪をありがとうございましたの次に沈黙が流れ、この今の状況といったら…。
デトックスウォーターをクルクルとストローでかき回しながら、乃糸ちゃんは呆れたように私たちをちらりと見る。
「でも、深雪がこげん行動的やなんて、思っとらんかった。深雪、変わったね」
「…それは、どういうこと?」
深雪くんは、恐る恐る乃糸ちゃんに尋ねる。
私は、乃糸ちゃんが深雪くんに説教を始めるのだと思っていた。
それはおそらく、深雪くんもだ。
ただ、そんな普通の乃糸ちゃん像は、いかにもあっさりと打ち砕かれた。
「深雪がおとなしかったのは、うちのせいやったんやなって。うちのせいで、深雪は自分から行動しづろうなっとったんかって思うと、堪えられん…」
乃糸ちゃんは、ぽろぽろと涙をこぼし始めたのだ。
いつのまにかかき回していた手も止まっていて、乃糸ちゃんの顔は細く白い手で覆われていた。
私は、そんな乃糸ちゃんの背中をさすってあげようと思った。
だが、私よりも先に乃糸ちゃんに触れていたのは、深雪くんだった。
「ううん、いいの。いいんだよ、僕はもう一人暮らしで気ままに生きてるから。ね、大丈夫だよ」
深雪くんが、乃糸ちゃんの頭を不器用に撫でる。
普段は深雪くんのお姉ちゃんのような乃糸ちゃんが、今日は妹のように見えて、目頭が熱くなった。
「深雪、ごめんね…。いっぱい無理させて、ごめん…」
乃糸ちゃんは、さらに大粒の涙を流し始める。
私も、背中をさする。
まだDETOXに誰もお客さんがいなくてよかった。
「乃糸ちゃん、僕、たまには古賀さんたちにも会いに行く。もう僕の心配はいりませんって」
「うん…。いつでも来てよかよ」
「僕はもう一人で平気だから。会いに行くね」
乃糸ちゃんは少し落ち着いた後、深雪くんに笑って、
「ありがとう、また来る。…そん時は、うちにも来て」
と言った。
そして、私にも。
「小桜さんも、ありがとうございました。子供でごめんなさい、じゃあまた!」
そう言って、手を振って帰っていった。

「…僕が小さい頃、乃糸ちゃんは僕の頭をよく撫でてました。髪の毛がつやつやって言って」
深雪くんは、私にデトックスウォーターを注ぎながら言った。
「今日、僕が乃糸ちゃんの頭を撫でたけど。…なんか、小さい頃の僕と同じような、あったかい気持ちになってくれてたらいいなって思いました」
きっと、乃糸ちゃんと深雪くんは、お互いにとって本当にかけがえのない存在なのだ。
「そうだね。ふふ、なんか可愛いな」
私は可愛い二人が微笑ましく、そう言ってしまった。
「あんま言わないでください、恥ずかしいから」
深雪くんも、笑ってそう言っていた。
デトックスウォーターには、赤い果実が一粒、珍しく注がれていた。