後日。
ピンポーン、というなかなか鳴ることのない音が、部屋に響いた。
「はい」
『あ、羽生でーす。羽生深雪です。メッセージ送れなくてすみません。パフェできたので、届けに来ました』
仕事から帰ってきてすぐだったため、私はスーツのまませかせかとドアを開けた。
「やったー!ありがとう!せっかくだし、上がってよ」
そう言ったのだが、深雪くんはなぜかその場で立ちすくんでいる。
「…どうかした?」
私がそう尋ねると、深雪くんはふっと微笑んで、
「ううん。改めて見ると、スーツもかっこいいなって」
と、私の姿を見ながら言った。
「僕も着てみたいな。小桜さんみたいな、かっこいいスーツ」
…か、彼女?
私の彼女ですか?この子は。
私が恋愛に興味なくてよかった。きっと、目の前でこんな綺麗な顔でそう言われたら、全国の老若男女が倒れる。
しかも、私の袖のところをきゅっと掴むこの手。
全世界の人類に、庇護欲が芽生えるのではないか?
「そんなにかっこいいかな?ただのスカートだし、普通だけど」
「小桜さんに、合ってるってこと。ね?」
はたして、私がこんな男の子のそばにいていいのだろうか。
それはともかく、今日は試作品を実食してみなければならない。
「そんな褒め言葉と同時に、試食品をどうぞ」
深雪くんは私の部屋に入り、早速パフェをボックスから出してくれた。
「…すごい。想像よりも可愛い」
ちょうどいい大きさのパフェグラスに、三つの層の上に練乳がかかったバニラアイスクリーム、そこにブルースターが添えてある。
「層は、上からビスケットと、ブルースターのクリーム、ミルクプリン、練乳がけスポンジです。バニラアイスとビスケットの間に、ブルーベリージャムを少し入れて、ミルク感が引き立つようにしてみました」
「めちゃめちゃ美味しい。確かに、ブルーベリージャムが入ってるから少し爽やかにもなるね」
私はあっという間にそれを食べてしまい、「幸せ」な気持ちになった。
食用のブルースターは、アイスと一緒に食べてみると、ほんのり花の香りがした。
これだったら、らーさんも喜ぶはず。
「僕、今かららーさんの所行こうと思ってて。…また、結果伝えますね」
「え、今から!?頑張って。結果待ってるよ」
私はそう言って、深雪くんを見送った。
もうすっかり夜になったとき、深雪くんからメッセージが来た。
『合格、だって。材料が揃い次第、注文できるようになる』
私は、嬉しさで一人拍手をしてしまった。
また食べたいし、今度行ったときに注文しよう。
『それで、らーさんが花束から見つけたって言って、これくれた』
それに続けて、一枚の画像が送られてきた。
カードのようなものだ。もしかして、店員さんがつけてくれたあのときのものかもしれない。
そこには、こう書かれていた。
『ブルースターの花言葉 信じ合う心』