「乃糸ちゃん、なんかずっと怒ってて。こう言われちゃったんですよね」
らーさんにお返し、それは確かに必要だ。
でも、何をすればいいのか、いい案が思いつかない。
乃糸ちゃんなりに、深雪くんの居場所がなくならないように気遣ってくれたのだろう。
「お返し…。あ!新メニュー考えるとか、どう?」
私は思いついた案を言ってみた。
するとらーさんが、
「それは嬉しい。いいですね、新メニュー」
と言ってくれた。
「じゃあ、小桜さんついてきてよ」
「え?」
「新メニュー考えるために、いろんなお店回るの。いいよね?」
そんな美しい顔で言われたら、きっと断れる人いないだろうね。深雪くん。
ただ私は、そんな深雪くんにある程度慣れたため、土日ならいいよと言ってあげた。

そして、土曜日。
DETOXで待ち合わせと約束して、少し早めに来たのにもかかわらず、もう深雪くんは先に着いていた。
「小桜さん来た!」
こちらへ小走りで向かってくるその姿は、どこか幼く見えた。
「ごめんね、待たせちゃったね」
「ううん、全然大丈夫。待ってる間に、行きたいお店探しておきました」
私は深雪くんが調べたお店についていくことにした。
ただ、いつもより距離感が近い。
仲のいい親戚のおばさんと、幼い男の子が一緒に出かけているみたいだ。
深雪くんは、嬉しそうに私の隣を歩いていた。
今日は、ピアスが控えめな気がした。
「小桜さん、何注文します?」
「えっと、これかな。いちごとホワイトチョコのミニクレープ」
「いいですね。僕は、このキャラメルガレットにする。お互い半分こして食べましょ」
そんな風に、お互いが注文したものを半分こにして、私たちはスイーツが美味しいカフェを四店舗めぐった。
いくら美味しくても、価格を抑えるには材料の種類を減らさなければいけないのが大変。
いざ作るとなると、色々な問題が生じるのだと思った。
そんな中でも、一番美味しいと思ったのは、レトロな喫茶店で食べたミルクプリン。
主な材料は牛乳で、そこまで値段がかからないのがいいポイント。
なのに味はすっきり甘くて、素朴なのにあっという間に食べてしまう美味しさなのだ。
これをアレンジして、DETOXでも提供できないだろうか。
「ミルクプリンなら、全然作れると思うんです。でも、それでらーさんが本当に嬉しがるかって言われたら…」
「そうだね、もう少しインパクトがあるといいけど…」
帰り道、私と深雪くんはミルクプリンのアレンジに苦戦していた。
何かもう少し、インパクトのあるものを…。