私が深雪くんの様子を確認しに行くと、もう深雪くんは起きていた。
昨日のような暗い雰囲気を纏っているわけではなく、混乱しているようだった。
もしかしたら、昨日のことが記憶にないのかもしれない。
私は朝早かったが、起きた深雪くんに軽く身支度を整えてもらい、話をすることにした。
まだ外は明るくない。
「…そんなことがあったのに、泊めてくれて本当にありがとうございました」
深雪くんは、私が昨日のことを説明すると、そう頭を下げた。
学生証のことも話した。
「できればでいいから、教えてほしいんだけどね。どうして、昨日はあんな場所に行ったの?」
それから。
「…高校生なのに、なんでDETOXで働いてるの?」
深雪くんの表情は、曇ったままだ。
重い話になりますが、と、深雪くんは話を始めた。
「僕、両親がいなくて。なんでかもわからないんです。僕がだいぶ小さい頃にすでにいなかったみたいなので、両親の記憶はないんですけど」
私は、幼少期の自分のことを思い出した。
そして、お父さんのことも。
「それで、施設に入らずに、親戚の家を転々としてて…いろんな人の家に居候させてもらってた。でも、ほとんどの家が一週間も経たないうちに、出ていけって言った」
確かに、突然親戚の子供を預かることになるのは大変だと思う。
それにしても、一週間も経たないうちに放されるなんて、酷すぎる。
「それで、最後の希望が乃糸ちゃんの家だったんです。乃糸ちゃんの家族は、どの親戚よりも優しくて、何もかも包み込んでくれるような、あったかい人たちだった」
乃糸ちゃんは、幼馴染じゃなくて、親戚だったんだ。
またそこで一つ、深雪くんの秘密がほどけた気がした。
「でも、僕と乃糸ちゃんは全然違った。乃糸ちゃんは、勉強もスポーツも完璧だった。しかも、いつも僕のことを気にかけてくれてた」
「うん…今もそうだよね」
「はい。でも、なぜか乃糸ちゃんの家に住むようになってから、逃亡癖が出てきた。そのときから、もう始まってたんです。僕がいなくなるたびに、乃糸ちゃんはどんなに遠いところでも息を切らして走ってきて、帰ろうって言ってくれた」
深雪くんの声が震えだした。
私も無意識に、唇を強く嚙んでいた。