私はその後も柚葉ちゃんと少しの間会話を楽しんで、仕事に戻った。
仕事が終わった後に必ずご褒美があったら、頑張れるものなのだろうか。それがお給料?
柚葉ちゃんは、帰ったら愛する子供たちがいる。
「私も、猫とか飼えばいいのかなぁ…」
「どうしたの、鈴鳴(すずなり)さん」
「あ、すみません。考え事してて…」
ふと考えていたことが口に出て、先輩を驚かせてしまった。おまけに、時には休んでもいいんだよ、なんて心配までしてもらってしまった。
絶対、仕事で追い込まれてると思われただろうなぁ…。
隣で柚葉ちゃんが、少し笑っていた。
それから私は仕事に集中し、柚葉ちゃんが帰っても、変わらず仕事を続けた。

時間は夜の八時。もうあたりは真っ暗で、街の灯りが目立っている。
私は会社を出て、少し街を歩いた。お昼ご飯をたくさん食べたせいで、あまりお腹が減っていない。
人混みの中をすたすたと一人で歩き、良さそうなお店を見つける。街には本当になんでもあるので、たまにはあてもなく、ふらふらと散策してみるのもいいかもしれない。
ハンバーガーって気分でもない。おにぎりは今いらない。たこ焼き…でもない。どこかのカフェでお茶でもしようかな。
ただ、カフェといっても、なかなかいいお店が見つからない。
社内で温まっていた体はいつの間にか冷え切っていて、冷たい風が頬に当たるとヒリヒリした痛みが起こった。
少しして、仕方なく全国チェーンのカフェに入って、ホットココアを注文した。
窓側の席に座り、用もなくスマホを見る。
みるみるさん、という私が好きなキャラクターの新作グッズが出たようだ。
ガチャガチャは本当に破産するのでやめてほしかったが、癒しといえばこれなので、後で駅の近くのショッピングモールで探し回ることにしよう。
みるみるさんのアクリルキーホルダー、という名前がもう可愛い。みるみるさんが六種類、アクキーになっている。
なんて可愛いんだ。癒しです、ありがとう…。
その後も、ただただSNSを漁った。
自己満足としか思えない投稿ばかりしているのに、何故か人気のインフルエンサーの文章の下に、病と闘っている人の投稿が比較されるように出てくる。
もし、この二人が真実を言っているのならば、自分は闘病生活を送っている人の方が応援したくなる。親がそうだからか。
いいねの数は多くても、それに対する人々の思いが軽かったら、それはただの数字にしかならないと思ってしまうからか。
お母さんは、きっとそんな私の考え方を知ったら、「お母さんのせいでそうなった、ごめんね」と言うだろう。
結局全て、決めるのは自分自身だ。全ての最果てはその結論だ。
甘ったるいココアが、時間を溶かす。
ココアを飲み終わるまでの時間は、空っぽだった。