電車に揺られているときは、お互い何一つ話さなかった。
ただ横移動する景色を、静かに見つめていただけだった。
私は、自分の家に深雪くんをあげた。
「手洗ったら、一緒にごはん食べよう」
深雪くんは何も言わず、ただ立っていた。
私は深雪くんを手洗いさせて、ここでちょっと待っててと、すぐ終わる買い出しに出かけた。
鍋とか食べるかな。きっと体が冷えてるから、あったかいものを食べさせてあげたいな。料理苦手だけど…。
私は鍋の具材とスープを買って帰宅した。
「待たせてごめんね…って、深雪くん?」
深雪くんは、テーブルに顔を乗せて、寝てしまっていた。
なんて綺麗な寝顔…と、少し驚いて見つめてしまっていたが、私は自分を取り戻し、ブランケットをかけてあげた。
「深雪くん、お鍋食べる?」
寝ているところ悪いな、と思いつつ、そう尋ねる。
「…いらない」
小さくそう返事が来た。
食欲がないのかもしれない、と思い、お母さんのために買ってあったお粥を温めて、鍋も作って、深雪くんに出した。
「食べたいときに、食べたい分だけお皿に取って食べてね。冷めてたら、自分で温めていいからね」
まだ寝ている深雪くんにそう言って、私も自分の食べ物を食べようとした時だった。
深雪くんのパーカーのポケットから、スマホとあと一つ、物が落ちそうになっているのが見えた。
あれは何かのカードだろうか。…学生証、にも見える。
大切なものだったら、こんなに薄いものは落ちても気が付かなそうで危ない。
そう思い、私はそのカードとスマホを拾った。
ただ、そのカードは、カードではなかった。
「…え、これ…」
晴嵐高校に通う生徒が持つ、学生証だった。
私の母校でもある。
晴嵐高校三年、羽生深雪。
学生証の有効期限を見た。
今年の春まで。
「…深雪くん、高校生じゃん…。乃糸ちゃんと同い年だったのに…!」
なぜ、噓をついたのだろうか。
私は部屋を出て、乃糸ちゃんに連絡した。
『深雪くんに無事会えた。様子がおかしかったから、家にあげたよ』
『よかった!本当にありがとうございました』
すぐに返信が来る。
『学生証、見ちゃった』
返信は来ない。
『深雪くん、高校生だったんだね』
しばらくして、返信が来た。
『噓をついて、本当にごめんなさい』
私は返事をしなかった。
『きっと、深雪から話があります。今日、できたら泊まらせてあげてください。本当にごめんなさい。今日は、深雪はまともに話せないと思います』
「乃糸ちゃん、…」
『明日になれば、ちゃんと深雪も話せるようになると思います。どうかお願いします』
それから、私は返事をしないまま、スマホを閉じた。
ただ横移動する景色を、静かに見つめていただけだった。
私は、自分の家に深雪くんをあげた。
「手洗ったら、一緒にごはん食べよう」
深雪くんは何も言わず、ただ立っていた。
私は深雪くんを手洗いさせて、ここでちょっと待っててと、すぐ終わる買い出しに出かけた。
鍋とか食べるかな。きっと体が冷えてるから、あったかいものを食べさせてあげたいな。料理苦手だけど…。
私は鍋の具材とスープを買って帰宅した。
「待たせてごめんね…って、深雪くん?」
深雪くんは、テーブルに顔を乗せて、寝てしまっていた。
なんて綺麗な寝顔…と、少し驚いて見つめてしまっていたが、私は自分を取り戻し、ブランケットをかけてあげた。
「深雪くん、お鍋食べる?」
寝ているところ悪いな、と思いつつ、そう尋ねる。
「…いらない」
小さくそう返事が来た。
食欲がないのかもしれない、と思い、お母さんのために買ってあったお粥を温めて、鍋も作って、深雪くんに出した。
「食べたいときに、食べたい分だけお皿に取って食べてね。冷めてたら、自分で温めていいからね」
まだ寝ている深雪くんにそう言って、私も自分の食べ物を食べようとした時だった。
深雪くんのパーカーのポケットから、スマホとあと一つ、物が落ちそうになっているのが見えた。
あれは何かのカードだろうか。…学生証、にも見える。
大切なものだったら、こんなに薄いものは落ちても気が付かなそうで危ない。
そう思い、私はそのカードとスマホを拾った。
ただ、そのカードは、カードではなかった。
「…え、これ…」
晴嵐高校に通う生徒が持つ、学生証だった。
私の母校でもある。
晴嵐高校三年、羽生深雪。
学生証の有効期限を見た。
今年の春まで。
「…深雪くん、高校生じゃん…。乃糸ちゃんと同い年だったのに…!」
なぜ、噓をついたのだろうか。
私は部屋を出て、乃糸ちゃんに連絡した。
『深雪くんに無事会えた。様子がおかしかったから、家にあげたよ』
『よかった!本当にありがとうございました』
すぐに返信が来る。
『学生証、見ちゃった』
返信は来ない。
『深雪くん、高校生だったんだね』
しばらくして、返信が来た。
『噓をついて、本当にごめんなさい』
私は返事をしなかった。
『きっと、深雪から話があります。今日、できたら泊まらせてあげてください。本当にごめんなさい。今日は、深雪はまともに話せないと思います』
「乃糸ちゃん、…」
『明日になれば、ちゃんと深雪も話せるようになると思います。どうかお願いします』
それから、私は返事をしないまま、スマホを閉じた。



