『乃糸ちゃん、ちょっと今大丈夫?』
『どうかしましたか?』
速く返信が来て助かる。
私は、深雪くんのことを乃糸ちゃんに話した。
『とりあえず、私のところにも何の連絡も来ていないですね』
どうしてだろう。やはり体調不良じゃないのか。
『話しておきたいことがあるので、通話にしてもいいですか?』
乃糸ちゃんはそう送ってきて、すぐに電話がかかってきた。
『小桜さん!急にすみません』
「ううん、大丈夫だよ!こっちこそ急にごめんね」
私は、通話しながら駅のホームのベンチに腰かけた。
『深雪について、話しておきたいことがあって』
「うん、話して大丈夫だよ」
『…深雪は、小さい頃から逃亡癖があるんです』
逃亡癖。どういうことなのだろう。
『深雪は、家庭事情が複雑で、小さい頃のトラウマがあるんです。そういう嫌なことを思い出すと、誰にも言わず、独りでどこかへ行っちゃうんです』
どこか深雪くんには、儚さがあった。すぐに消えてしまいそうな、本当に雪のような。
「じゃあ、今はそういうことなの…?」
『たぶん。くわしい居場所はわからないですが、私は色々あって慣れてるので、なんとなく行きそうな場所は思い浮かんでます』
「私、今駅にいるんだけど、言ってもらえれば行けるよ」
どうしてか少しの間、沈黙が流れた。
静かに、乃糸ちゃんが話し始める。
『…気持ちは本当にありがたいです。だけど、こんなことにまで小桜さんを巻き込みたくない。深雪と、本当に店員とお客さんの関係なら、これ以上は私もいくら幼馴染といえど不安です』
そう言われて、私は気がついた。
確かに、私は深雪くんと、所詮店員とお客さんの関係なのだ。
だけど。
「お願い、乃糸ちゃん。絶対深雪くんに悪いことはしない。大人なのに我儘なのは本当に申し訳ないし、これは乃糸ちゃんに任せたほうがいいこともわかってる。だけど、お願い。…なんだか、すごい怖くて」
私は、声を震わせながらそう言った。
あの、お父さんがいなくなった日を思い出す。
大切な人が、どこかへ行ってしまった時の恐怖。
スマホを持つ手が震え、それを隠すように、無意識にもう一方の手を覆いかぶせる。
『…深雪を傷つけたら、あなたのこと殺しますから』
ふと、乃糸ちゃんの真剣な声が聞こえた。
「そ、それって」
『今日だけは、深雪をお願いします。私もすぐ行ける状態じゃないし…小桜さんに頼みます。私の家族には内緒にしておくから、とにかく早く』
「…はい。ちゃんと、深雪くんに寄り添いに行きます」
『絶対、ね。もう通話切って、すぐ地図の写真送ります。きっと今電車が出発するので、人がいない方に乗り込んでください』
乃糸ちゃんはそう言った後にすぐ通話を切り、地図の写真を送ってくれた。
どうやら、深雪くんはなんだか危ない雰囲気の通りの路地裏にいることが多いらしい。
私は、乃糸ちゃんが送ってくれた写真を見ながら、電車に乗り込んだ。
『どうかしましたか?』
速く返信が来て助かる。
私は、深雪くんのことを乃糸ちゃんに話した。
『とりあえず、私のところにも何の連絡も来ていないですね』
どうしてだろう。やはり体調不良じゃないのか。
『話しておきたいことがあるので、通話にしてもいいですか?』
乃糸ちゃんはそう送ってきて、すぐに電話がかかってきた。
『小桜さん!急にすみません』
「ううん、大丈夫だよ!こっちこそ急にごめんね」
私は、通話しながら駅のホームのベンチに腰かけた。
『深雪について、話しておきたいことがあって』
「うん、話して大丈夫だよ」
『…深雪は、小さい頃から逃亡癖があるんです』
逃亡癖。どういうことなのだろう。
『深雪は、家庭事情が複雑で、小さい頃のトラウマがあるんです。そういう嫌なことを思い出すと、誰にも言わず、独りでどこかへ行っちゃうんです』
どこか深雪くんには、儚さがあった。すぐに消えてしまいそうな、本当に雪のような。
「じゃあ、今はそういうことなの…?」
『たぶん。くわしい居場所はわからないですが、私は色々あって慣れてるので、なんとなく行きそうな場所は思い浮かんでます』
「私、今駅にいるんだけど、言ってもらえれば行けるよ」
どうしてか少しの間、沈黙が流れた。
静かに、乃糸ちゃんが話し始める。
『…気持ちは本当にありがたいです。だけど、こんなことにまで小桜さんを巻き込みたくない。深雪と、本当に店員とお客さんの関係なら、これ以上は私もいくら幼馴染といえど不安です』
そう言われて、私は気がついた。
確かに、私は深雪くんと、所詮店員とお客さんの関係なのだ。
だけど。
「お願い、乃糸ちゃん。絶対深雪くんに悪いことはしない。大人なのに我儘なのは本当に申し訳ないし、これは乃糸ちゃんに任せたほうがいいこともわかってる。だけど、お願い。…なんだか、すごい怖くて」
私は、声を震わせながらそう言った。
あの、お父さんがいなくなった日を思い出す。
大切な人が、どこかへ行ってしまった時の恐怖。
スマホを持つ手が震え、それを隠すように、無意識にもう一方の手を覆いかぶせる。
『…深雪を傷つけたら、あなたのこと殺しますから』
ふと、乃糸ちゃんの真剣な声が聞こえた。
「そ、それって」
『今日だけは、深雪をお願いします。私もすぐ行ける状態じゃないし…小桜さんに頼みます。私の家族には内緒にしておくから、とにかく早く』
「…はい。ちゃんと、深雪くんに寄り添いに行きます」
『絶対、ね。もう通話切って、すぐ地図の写真送ります。きっと今電車が出発するので、人がいない方に乗り込んでください』
乃糸ちゃんはそう言った後にすぐ通話を切り、地図の写真を送ってくれた。
どうやら、深雪くんはなんだか危ない雰囲気の通りの路地裏にいることが多いらしい。
私は、乃糸ちゃんが送ってくれた写真を見ながら、電車に乗り込んだ。



