私は、アプリコットタルトを食べ終えようとしていた。
アプリコットを艶やかなゼリーが覆っていて、それを食べ進めていくと中心にホイップクリームが出てくる。
そのまた中心にはアプリコットジャムが、最後には小さなココアのスポンジが、と、ほぼマトリョーシカだった。
レシピはマスターのらーさんが考案して、深雪くんが少し材料を工夫して作ったらしい。
マスターの「らーさん」というのはあだ名だそうで、本名は非公開だそうだ。かっこいいおじさんだ。
そんなことを考えつつ、私が夜ごはんになるものを探していると、大きなホットサンドというメニューを見つけた。
種類はBLT、ハムチーズ、照り焼きチキン、ツナとポテサラなど様々。
そんな中で一際私の目を引いたのは、アボカドとエビ。
さっぱりとしていそうで、お腹にもちゃんとたまりそうでいいと思った。
「深雪くん、注文いい?」
「はい、どうぞ」
「大きなホットサンドの、アボカドとエビをお願いします」
出来上がるまでに少し時間がかかりそうだったので、私は特に理由もなく、深雪くんを見つめていた。
…十八歳でこんなにしっかりしているなんて、すごい。大人の会話にも自然と溶け込んでいるし、容姿もかっこよく、どこか大人びている。
ただ、たまに少しだけ、笑顔が子供っぽくなる。子供の頃に、あまり「子供」をしていなかったからなのかもしれない。
いつか、深雪くんの小さい頃の話もできないかな。
今幸せならいいけれど、こんなに大人慣れしているのは、やはり何かあったからなのではないかと思ってしまう。
私はデトックスウォーターを一口飲んだ。疲れた体に、果実たちが優しく染み渡った。
「お待たせしました。アボカドとエビです」
しばらく待っていると、ホットサンドが目の前に現れた。
あ、ホットサンドってやっぱりこういう感じのやつか!美味しそう!
「ホットサンドっていうホットサンドじゃないんですよ、うちの。焼いたバゲットに、アボカドとエビと、自家製ソースをはさんだやつ。美味しいですよ」
「美味しそう、いただきます!」
私は、大きなホットサンドにかぶりついた。
アボカドの優しい風味とクリーミーな食感に、ぷりぷりのエビがみずみずしく自家製ソースと一緒に波に乗る。めちゃめちゃに美味しい。
香ばしく焼いてあるバゲットは、外がカリッとしていて、具材に負けていない。
「どうですか?」
「めっちゃ美味しいよ、アプリコットタルト食べる順番間違えたなぁ」
「ふはっ、それは確かにやっちゃったね」
深雪くんは笑いながら、ホットサンドを頬張る私を見ていた。
そんなのお構いなしに、私はホットサンドをもりもり食べた。