「やっっっっっっと終わったー!疲れたー!」
「やったじゃん、小桜(こはる)!あたしもあとちょっと」
同期であり友達の柚葉(ゆずは)ちゃんと、大きく伸びをした。
書類作成が終わったからといってまだまだ仕事はあるけれど、一つ区切りがついたことがとても嬉しかった。昨日あと少しのところまで終わらせておいてよかったと、しみじみ思う。
私はミルクコーヒーを一口飲んで、スマホを手に取る。
「柚葉ちゃん、もうお昼だよ」
「え、まじ?どうしよー…。しょうがない、これ午後終わらせるかな。食堂行こ!」
そんな短い会話をして、私たちは社内食堂に向かった。暖房のあたたかい空気が、社内を満たしていた。
食堂に着き、私はアジフライ定食を、柚葉ちゃんは惣菜パンを二つ買った。
「あ、そうだ。今日晩ごはん行きたいねなんて話してたじゃん?」
「うん」
「ごめん。子供が熱出たから行けない」
「えっ、大丈夫?寒いもんね。私のことは平気だから、お大事にね」
私たちの勤めるこの会社は、とても優しい会社で、主に金銭面に不安がある人達が働いている。
柚葉ちゃんは今三人の子供を一人で育てているし、最初の子を産んだのは十七歳だったと聞いた。
私は早くに病気で父親を亡くし、一人っ子の私が唯一頼れた母親は、今闘病生活を送っている。
そんな私たちには、ゆとりがない。まだ若いし、やりたいことも沢山あるのに、そんな暇はない。
それが案外よかったりするのかもしれないけれど。
「ありがと。…本当、まじで疲れるよ。子供とか可愛いんだけど、それなりに疲れる。小桜は、結婚とか考えてないの?」
「全くだよ、そんなの。結婚しない人だって今時沢山いるし、今のままでとりあえずはいいかなって。ほら、私は親が大変だし。迷惑かけちゃいそう」
「うーん、確かに。本当だよね、結婚しない人めっちゃいるよね。ていうか、そんなこと考えてる暇ないよね」
「ないない。結局忙しいんだよ、私たち働き者なんだよ」
でも、やっぱり少しはゆっくりする時間が欲しい。
時の流れが早すぎるというか、なんてことなく毎日が過ぎているからもったいないというか。
仕事と親のことを両立させて、縛られない生活がどれほどよかったかを感じた。
少し怖いことを言っているみたいで、あまり普段はこう思わないのだけれど。
一度、何もかも捨ててどこかに行ってしまいたい。
そんなことを感じてしまうのが、今の自分。