『それが……見たはずなんだけれど……わからないんだ。必死に逃げる旅の途中、捕まったんだ。そして、私のこの世でいちばん大切なものも取り上げられた。そして、この村に連れてこられた』
「それが、この前の……転校生?」

 今日は、新しいお友達が、このクラスに入ることになりました。あの日のあゆみ先生の言葉が浮かぶ。

『そう。愛しいきみの転校生になった。きみと会った最後の日。胸に十字架の杭を打たれた……でも……それが誰だったのか、その記憶だけがすっぽりと無いんだ』
「そんなことが……」
『出来得る。私たち新月のモノは、かんだ相手を洗脳できる』
「僕のことも?」
『したろ? たましいのとりこに』

 ……そうだった。ゆうは、嬉しくてほっぺたが赤くなった。

『同じことが、オリジン……始祖にも出来ると思われる。つまり、見たことを忘れさせるんだ』

 あのさ、とゆうは記憶をたどりながら言葉を紡いだ。

「あの部屋のかんおけの前で、ベルの記憶を聞いたんだよね……胸に杭を打たれる瞬間の」
『……うん。覚えているよ。きみの記憶は私の記憶だから』
「あの時の声、男の人だったけど」
『あれも、改ざんされていると思ってくれて間違いない。女だったかもしれないし、本当に男の声だったのかもしれない』