「ここなら大丈夫そうだ」

 五十六時間後。アレクセイとベルベッチカは雪山の中に手入れのされた山小屋を見つけた。荒れ果ててはいない……つまり誰か他のヒトがここに来ている、ということだ。油断は出来ないが、ここ三年血を吸っていないベルベッチカの体力は限界だった。

「休んでいて。シカでも捕ってくる」

 彼はそう言うと、吹雪の中へ山小屋から出ていった。

「はあ……」
(疲れた。……とても)

 少女は疲弊しきっていた。ヒトから身を隠すのも、おおかみと戦うのも、満月のオリジンから逃げるのも。
 ふう、と真っ白い息を吐く。ヒトなら数分で凍死しているだろう。けれど新月のオリジン、ベルベッチカなら平気だ。……それが、油断を招いた。

「おや、誰もいないと思ったら」

 彼じゃない……ヒトだった。ランタンを持った四十過ぎくらいの男だ。彼女はいま、黒の薄いチュニック一枚だ。

(しまった、うとうとしていたら……)
「こんな中そんな格好ってことは、おめえ……ヒトじゃねえな?」

 そう言うと、男は手を伸ばしてきた。