令和六年九月二日、月曜日。日本、岩手県、大祇村。
 一ヶ月ぶりにランドセルをしょって家を出ると翔が声をかける。

「久しぶり! 行こうぜ!」
「……ああ、いいよ」

 ゆうは穏やかに笑った。

 ……

「いいか、ゆうくん」

 沙羅のおじいちゃんは、真剣な顔でゆうを見た。

「今は日常を、いつも通りに送るんだ。コピーのおおかみたちは、ヒトの姿ではおおかみの記憶はないし、鼻も効かない。祭りも、なつやすみも終わった。学校にいる限り、安心なんだよ」
「あたしもいる! 任せて!」

 そう言って、沙羅はリュックからあの十字架のお守りを取り出して、見せた。そして八重歯を見せてにっこり、笑った。

「だいじょぶだかんね!」

 ……

「やほー、翔!」
「あっ、来たな、ガサツ女!」

 翔はいつものようにランドセルを前にしょって構えた。

「もー、やめろってー」

 身構えていた顔の前の手をどける。

「……あれ。いつものおーふくビンタは?」
「ああ。今日は……ふふ、やって欲しい?」

 にい、と沙羅が笑った。

「ひー、やめてー!」
「まてこら、翔ーっ!」

 真夏が過ぎた、木漏れ日がきらきらした山の中の道路。幼なじみたちは坂を駆け降りていった。

「沙羅……ありがとう」

 ゆうは感謝をつぶやくと、帽子を直して、二人を追った。

 ……