……もう五年。追い続けられ、追い詰められる日々が続いている。
 アレクセイという百八十五センチの高身長、金髪に緑の瞳の青年は、ベルベッチカの恋人である。十一歳くらいにしか見えない彼女と違い、二十歳前後に見えるが彼の方が遥かに若い。つい三十五年ほど前に少女が新月のオリジンの力を与えたばかりの青年だ。まだ目覚めていない幼体だが、けんめいに彼女を守ってくれる。

 ……おおかみたちの気配が消えた。

「はあ、はあ……振り切ったか」

 彼がそう言い、少女が振り返る。遠く……二十キロくらい先で、煙が大きくあがっている。村全体が燃えているのだろうか。あのおおかみの群れだ。修羅の巷で生き残りはないだろう。

「ああ」

 ベルベッチカは雪の上で、ひざから崩れ落ちた。

「ああああ……」

 声も涙も、枯れ果てたと思ったのに、まだ溢れてくる。

「ああああ……」
(……地獄じゃないか……この世界は……生きるということは)

 ポケットにしまっていた、古い……本当に古い赤い服のぬいぐるみが、ぽすっと落ちた。

「……行こう」

 アレクはそれを拾って、彼女の肩をささえてくれた。

「アレク、アレク。死んだよ、みんな死んでしまった」

 そう言って、吸血鬼の少女は慟哭の声を上げた。

 ……