ゆうは、言うなら今だと考えた。
 ベルに「新月のモノ」の「始祖」にしてもらったことを。

「ああ……そうか。やはりベルベッチカだったか」
「うん。あの子に、かんでもらったんだ。今月の六日に」
「そうだったのね。……ゆうちゃん、言ってくれてありがとう」

 そう言ってお母さんは、ゆうの癖のある髪をしまった帽子の上から撫でた。
 ……この髪の毛が、コンプレックスなんだ……

「ねえねえ、相原先生、おばさん。ゆうが祭りの日、おおかみたちを食べたのって……」
「それは、私が説明しようかの」

 沙羅のおじいちゃんが口を開いた。

「さっき言った通り、新月のモノの始祖は、バラバラにされても食べられても、元に戻ることが出来る。……ゆうくんの中のベルベッチカの細胞が、取り戻そうとしていたのだろう」
「ベルが、取り戻す……」

 ゆうは自分の手を見た。

「じゃあ、ベルの肉を食べたおおかみたちをみんな食べれば……」
「ああ、ベルベッチカは復活するだろう」

 ゆうの心の中に、宿ってはいけない火が灯った。……友達や、村人達全ての命を、愛しいベルにために食う、その業火が。

「だが、そうするためにも、満月の『始祖』を滅ぼさなくては、復活は無理だろう。おおかみたちは、満月の始祖の下僕なのだから」
「……わかりました」

 ゆうは、覚悟を決めた。絶対に、満月の始祖を滅ぼすと。おおかみたち全てを食べ尽くす、と。

「ところで、なんでトマトジュースは飲めたんですか?」
「完全に目覚めた新月の始祖は、目覚めていない『幼体』と違い、食事を取らないと聞く。が、トマトジュースを飲むとは……」
「ああ、あれ? ……お決まりじゃない? 吸血鬼にはトマトジュースって」

 お母さんは、そう言って笑った。